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A stór mo chroí

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驚いたのか、大きく響いたニールの声にチャイムの音が被さる。今気づいた、というように慌てて時計を見上げ、そのまま立ち上がった。
「もうこんな時間か。俺はもう行くけど、お前も次は授業ちゃんと出ろよ!」
「へーへー」
教師らしいことをようやく言って、ニールは慌しく部屋を出て行く。微かに香水の匂いが残る部屋で、いつもの定位置──両側の窓から見えない死角──に戻って床に座り込んだ。放課後になればうるさくて寝ていられない部屋だが、まだ時間はある。
今頃、資料とやらに追われているのか、それともグラハムに見つかって面倒くさいことになっているのか。目を閉じた暗い視界で、困ったように笑ういつもの顔が浮かんでは消えていった。





あれから、どうやらマジで忙しかったらしいニールは授業以外で姿を見ることがあまり無くなり(ニールは地学教師だ)、たまに家の近くを通っても電気がついていることはほとんど無かった。まあ、深夜と言って良い時間帯にしか通らないので当然なのかもしれねえが。
「……珍しいな」
人通りが少ないわけではないが、さすがに2時を過ぎるとほとんど人の姿はない。明かりの点いている家もほとんど無い中で、ニールの部屋だけが明るかった。誰かが来ているというわけでは無いらしく、窓には部屋のインテリアがぼんやり映し出されているだけだ。
足元に落ちていた手頃な石を拾い、3階の窓目がけて投げる。コツン、という小さなはずの音がやたら大きく聞こえた。
2度ほど石を投げてやると、窓際に人影が近づいてくる。寝てたわけじゃねーみてーだな。
「よう」
「ハレルヤ!?…ッ」
自分の大声に驚いたのか、ニールは慌てて自分の口を手で覆う。酔っているのか、ほんのり赤らんでいる顔だ。
「この時間に起きてるなんざ、珍しいな」
いくら明日が休日だとは言えニールもアーチェリー部の顧問などで忙しいはずだ。何を思ったのか少し首を傾げ、もう片方の手で手招きする。来いって?マジでレアだな。
「分かった、今行く」
オレが頷くと窓が閉められ、カーテンが引かれた。玄関へ向かうのだろう、ニールの影も遠ざかっていく。
「アイツ、マジもんの馬鹿だな」
警戒心が無いわけじゃはずだ。鈍感というには聡い。アレルヤのほうがよっぽど鈍感だ(でも変なところで勘が良いのが面倒くせえ)。オレが数日前にさんざ罵ってやったあいつらと同類だと、気づいていないはずが無い。
だからこそ、ニールは今まで一定の距離とルールでオレに接していた。酔っ払ってる時に逢うのは初めてじゃないが、そんな時に家に上げられたことは一度も無い。家に泊まったことは何度かあるが、仕事だ何だと理由をつけて同じタイミングで就寝したことは無い。もちろん、物理的にも一定の距離を開けていないとすぐに逃げられる。
薄暗い階段を上がり、チャイムではなくてドアを軽く叩くとすぐにドアが開いた。
「やっぱ酔ってやがるな」
「んー…まだそこまで酔ってねえよ」
オレは地学を選択していないが、一応世間的には教え子ということになるんだろう。その生徒の前で、ニールは1人酒の続きをあっけらかんと再開する。既にギネスの瓶が2つ、テーブルにあった。
「明日は休みなのかよ、センセー」
「練習試合のはずだったんだけどな、相手さんの都合とやらで中止だ。うちに他所を招くほどの施設は無いし、ま、ぶっちゃけると俺がここんとこ忙しかったんで、休みにしちまった」
「それで?こんな時間まで1人酒ってお前」
もうテーブルにはつまみらしいものは何も無かった。空になっている皿があるので、一応、食べながら飲んではいたらしい。
「別にいいだろ。お前と違って俺はもう大人なん……っ、ハレルヤ、何」
咎めるように聞こえたのか、目に見えて唇を尖らせて拗ねたニールの顔に手を伸ばすと、びくりと身体を震わせて避けようとする。逃がすかよ。誘ったのはテメーだろ?
「誰も悪いなんて言ってねぇ。つまみが無いなら、作ってやろうか?」
このまま放っておくと空きっ腹にギネスばかり詰めそうで、珍しく親切に言い出したことだったが、ニールは首を振った。まあ、ビールは腹が膨れるよな。
「そんなことしなくて、いい」
まだ拗ねているのか、それとも甘えようとしているつもりなのかもしれない。片手にギネスの黒瓶を持ったまま、少し避けようとしただけで席を立ったり離れたりしようとはしなかった。
「……良かったのかよ?バレたらヤベーんじゃねえの?」
深夜、酒を飲んでいるときに部屋に生徒を上げるってのはどう考えたって褒められることじゃない。
ちら、と視線だけ寄越したニールは目を合わせたかと思えばすぐに伏せて顔を反らす。目の淵が少し赤く染まっていて、気だるい雰囲気がなんつーかエロい。
「別に問題ねえだろ。お前が女子だったら、まずいんだろうけど」
「へえ?」
少しだけ声色を低めて傍に寄ると、また身体を揺らしたが今度は逃げなかった。こいつの場合、こんな常套句は鈍いから出てくる天然な発言でも何でもない。単にオレを牽制したがってるだけだ。
「お前の馬鹿で面白いトコは、オレがおっさんやあの変態と同類だって分かってンのに、そんなこと言うとこだよなァ」
「……っ」
やはり自覚はあったのか、今度こそ逃げようと身体を引きかけたニールの腰に腕を回す。
「今さら逃がさねえぞ。だから、お前は今までオレの前で酒なんて飲まなかったんだろ?」
隙を見せないように、オレが付け入る隙を与えてしまわないように。今まで、ニールはひどく用心深かった。何がきっかけかは知らないが、枷のようなものが壊れた印象さえ受ける。
「離せ、よ……」
酔いがどんどん回ってきているんだろうが、それだけじゃないのかもしれない。ニールの声は弱く、伴う息がひどく熱い。オレの肩に手をついて身体を離そうとするものの、力がほとんど篭められていなかった。指先にだけ入れられた力が、まるで縋っているようにさえ見える。
「逃がさねえって言ってるだろうが。離して欲しくねえなら、ちゃんとそう言えよ、ニール」
「違う、ハレル…ん、んーっ」
本当は理由なんざどうだっていい。
今までと違って、今のコイツにはオレから逃げる気が無い。それだけ分かれば十分だ。
「ん、んんぅ…っ……止め、ハレ…んっ、ん、っぁ」
ギネスの瓶が倒れてテーブルに転がる音がする。腰を強く抱いて身体を寄せ、もう片方の手でギネスを掴んでいた手を捕まえた。動きを封じて、くちゅくちゅと音を立てながら舌を嬲るとそれだけでニールはびくびくと身体を震わせる。
「っは、ハレルヤ、何で……」
「何で?お前は何が欲しいんだよ。言葉が欲しいならいくらでもくれてやる、犯される理由が欲しいなら縛り上げてレイプしてやるぜ?」
耳を舌先で撫で上げながら囁く。ひくりと身体を震わせて小さな声を上げたニールは、酔いのせいだけではなく潤んでいる目でオレを見、あちこちに視線を彷徨わせた。
「オレを安パイだと思ってたわけじゃねえ、今までずっと警戒してたもんな。分かってて家に上げたっつーのは、オレだったらいいってことなんだろ」
あの二人から逃げ回っているのに、同じ下心があるオレから本当の意味でニールは逃げようとしない。今も。
作品名:A stór mo chroí 作家名:忍野桜