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背中ヘのキス

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 用事を済ませた栄口が部室へ行くと、中は混沌としていて一瞬面食らった。田島が力ずくで押さえつけようと三橋の上に乗っかっている。花井は考え込み、阿部は腕組みしてその様子を伺っている。西広が「漢字で野球?」と答えると、近くにいた泉と沖は「すげえ」と驚き、ぱちぱちと拍手していた。
 これは一体何の騒ぎなんだろう。状況が読めない栄口は困惑した。
 自分の荷物の近くには巣山と水谷がいて、何だか二人とも真剣な面持ちだった。強張った巣山の背中へ水谷の指がゆっくりと円を描く。
「……ひらがなの『す』!」
「当たり!」
 そのやり取りを見たら、今何が起きているのか把握できた。また変な遊びが流行ってるんだなぁ。栄口はそう思った。
「おっ、栄口、どうだった?」
「やっぱダメだわ、明日グラウンド使えない」
 戸口に突っ立ていた栄口へ花井から声がかかる。
「そっかぁ、じゃあ明日の練習は……」
「花井、それよりさっきの答えは?」
「ううっ、もう一回書いてくれ!」
 そう言って花井は阿部へ背を向ける。阿部は元々使えない予定のグラウンドが使える、使えない、と二転三転したせいで、もう完全に諦めがついたようだった。副キャプテンのうちの一人はこんなふうに割り切りが早い。しかしキャプテンと、もう一人の副キャプテンはさっきまであやふやな情報に翻弄されていた。
「ほらよ」
「ううーん……」
「適当に何か言えやいいのに」
「やっ、まだ考えてるんだって!」
 多分背中に書いた文字を当てるゲームをしているんだろう。栄口も子供のころよくやった。栄口はふと違和感を覚える。『子供のころ』って変な言い方だな、と。世間的には自分はまだ子供なのに、昔のことを表す際つい使ってしまう。でも何で今、部内で皆試しているのかわからない。でもこういう不思議なブームは定期的によく起こる。
 用事も終わったことだし、さっさと着替えを済ませようと鞄へ近づくと、水谷と巣山はまだあの遊びをしていた。
「……ひらがなの『や』だろ?」
「おお! また正解!」
「で、次は『ま』なんだろ?」
「げえ、何でわかるんだよ」
「水谷ってワンパターンだからなぁ」
 けたけたと笑った巣山とは対照的に、水谷は頬を膨らませて「どうせオレはワンパターンですよ」と拗ねた。
「じゃあ次お前の番な」
「ちょっ、ちょちょちょっ!」
 暴れる水谷の肩が隣にいた栄口へぶつかった。
「栄口、それ押さえとけ」
「はいよー」
 巣山の悪巧みに加担して、嫌がる水谷の手首を強く掴むと、水谷は「覚えてろよおお」と三流悪役のようなセリフを吐いた。あまりにも似合いすぎていて栄口は吹き出してしまった。
「人の不幸を笑いやがってぇ!」
 そう睨まれたような気がしたけれど、次の瞬間水谷が発した笑い声で全部消し飛んだ。部内に響き渡るでかい声は必死そのもので、あまりの声量に驚いた三橋の身体がびくりと跳ね上がっていた。掴んだ手首がぐわんぐわんと揺らされる。可哀想だけど、暴れる水谷の手が容赦なく飛んできそうで、栄口は決して解こうとはしなかった。

作品名:背中ヘのキス 作家名:さはら