そして愛に至る
サンジの首筋にあった唇を鎖骨に落としていきながら、ゾロは擦れた声で言う。
「・・・このままここで、俺を気持ちよくさせろよ」
言葉と同時にサンジのシャツが二人の足元に落下した。
ベッドの縁を抱え込んでいるサンジの白い背中がうねるように揺れている。時折頭を左右に振りながら、飛びそうになる意識に必死でしがみついているかに見える。彼の唇から漏れ続ける嬌声は部屋中に響き渡り、サンジはそれを堪えることも忘れてしまったようだった。
ドアの前で彼を散々泣かせた後、シャワーの中で一度抱き合った。そのまま抱えるようにしてベッドに彼を運ぶと、朦朧とした視線で必死にゾロを押し倒したサンジは、ゾロの性器にむしゃぶりつくように舌を絡めた。
そして今は背後からサンジを抱いている。
箍が外れたサンジはゾロの動きに合わせて自ら腰を揺すっている。
手を伸ばして、サンジの背骨の上を辿るように触れる。白い肌に浮かぶ彼の尖った骨はいつもゾロの庇護欲を掻きたてる。サンジが首を曲げて振り返る。目じりにたまった涙がすっと彼の頬を滑り落ちる。潤んだ青い目のなかに情欲に染まったゾロの顔が映っている。ゾロは唇を少し舐めて、気が狂いそうな興奮に溺れてしまうのを堪える。
ゾロは右手で体の脇にある彼の左足を掴むと、それを上に持ち上げた。サンジの身体はぐらりと右へ傾ぎ、身体を預けていたベッドの柵からずるずると滑り落ちる。
「おいっ・・・なにす・・」
表情に不安を過ぎらせるサンジに熱い性器を容赦なく突き入れる。左足を大きく拡げたサンジをゾロは斜め上から見下ろす体勢で、激しく奥の性感帯に擦りつけるようにして腰を打ちつける。
「ああッ・・・う・・わッ・・あああッ・・・だめだ・・・おれ、おかしくなるっ・・おかしくなっ・・・」
縋りつく柵を無くして、空に伸ばされたサンジの両の手をゾロは掴んで自分の背中に廻す。ぎりりと彼の爪がゾロの肉に突き立てられる。鋭い痛みが走る。今ここで、サンジが狂おしいほどゾロを求めているという証。
「おかしくなっちまえよ・・・俺が全部、見ててやるから」
そう言って屈みこみサンジの唇ごと彼の言葉と感情を奪う。彼の口唇を犯して、溢れる唾液を飲み下す。
金色の髪が白いシーツに散っている。明るい部屋の中で、淫靡な獣に成り果てた彼の肢体が踊っている。ゾロが唇を離すと、サンジは自分を征服する男の瞳を見つめ、うわ言のようにその名前を何度も呼んだ。サンジを見下ろすゾロの頭に激しい酩酊感が駆け巡る。
「お前の全部を見せろよ・・・サンジ」
そう一言呟いたゾロは、絶頂を目指すために全ての理性を手放した。
* * *
サンジの上で男は穏やかな寝息をたてている。
想像した通り、見飽きた男の寝顔は近くでみると少し違ってサンジの目にうつる。
臥せられた意外に長い睫、口の右側にある小さな傷跡、髪の生え際の浮き上がるような緑。
いつもより数倍幼く見えるこの寝顔をずっと見ていたい、とサンジは思う。
「結局、何も言わずに、何も言わせずに寝ちまうんだからな、お前は」
そう呟き、男の体で唯一滑らかな背中に掌を置く。
空気に潜む夜の濃度が段々と高くなっている。カーテン越しに太陽と夕闇の混じった紫の光が透けている。ベッドの脚やテーブルやその上に置かれたガラスの水差しの影が、すっと部屋に伸びている。
街よりも早く、この部屋に夜が訪れようとしている。
この宿に来るまでの道のりを、サンジとゾロはほとんど無言で歩いてきた。船を降り港を抜け大通りの喧騒を越える間、ズボンのポケットに両手を入れたままサンジの一歩前を黙々と歩く男の背中を見つめていると、サンジはまるで地図にない海を漂流しているような気分になった。通り過ぎてゆく人々も街の景色も小さなキャラベル船も仲間達も自分が海に出た理由も全てが消えて、世界をゾロと二人だけで漂っているような気分になった。
今だけに身を任すような感覚を永遠に味わっていたかった。
そして流れ着いたこの部屋で、こうして眠る男を胸に抱いている。シーツの上にある男の掌を握りしめる。温かい。
もう少し時間が経って、この街に完全な夜が訪れたらゾロを起こそう。そして一緒に船へ戻ろう。仲間と共に再び帆を張ろう。
先は長い。旅はこれからも続く。喜びも悲しみもさまざまな出来事が、きっと海にはある。それを超えていく。何度でも何度でも夜と朝が二人には訪れる。
眩暈がするような、どうしようもなく胸が踊るような圧倒的な確信に満たされながら、サンジはそっと、太陽の匂いがする髪に顔を埋めた。