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Piece_Of_Color

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やがて、ひとつの欠片の黒い表面に、まず薄青い光が灯り、次にその隣の欠片に移り、水面にできる輪のように、ひとつの欠片から次の欠片へと伝わり、丸く並べられたすべての欠片の表面に、さざなみのように、青い明るさが広がった。
「なに、これ……? なにかの映像?」
「1000年前の”空”さ。いや、最後の闘いのあった時代の、もっと前か。空の記録映像。これは、大昔の建物の天井に取り付けてあった映像装置じゃないかと推定されてる。本物の空の映像を記録して、室内の天井に映してたらしい。」
「これが……空…なのか…?」
リュウは、思わず、ひとつの欠片を手に取った。地底湖の水を掬い上げたときのように、手のひらの上で、底のない青い光がまたたき、霞のようにも、また煙のようにも見える白い繊維が、その青の上をすべって、速い魚のように、リュウの手のひらの上をすばやく通り過ぎる。
「その白いのは”雲”って呼ばれてた……、水蒸気の一種だそうだ。」
 つぎはぎの欠片で作られた円は、淡く青い光で覆われて、その青色の上に、白い”雲”が次々と現れては、円の全面をぬぐうように移り変わり、過ぎ去っていく。いつの間にか、床から溢れる青白い光に魅入っているボッシュを、リュウはこっそりと見た。どこか懐かしいものを見るような、歓喜の表情が下から照らし出されている。いつもは灰緑色をした瞳の膜の上に、明るい青の光が乗っている。ボッシュがつけている片耳だけのピアスにも、同じ色が映り込んでいる。その小さな球面の表面をなでるように、白い水蒸気の塊が、いくつも通り過ぎる。この色は、同じ色だ。”空”と同じ色。リュウは、初めてそのことに気づく。ボッシュの左耳の小さな丸い石を見るたびに、これからはこの色を思い出しそうだと、リュウは思う。その水色の表面に映った、流れる白い雲も。その小さな石の奥にある、なにかの願いも。
「これは空を高速度撮影したものだから、時間がずいぶん早く流れる。見てろ、全体の色が変わる。ほら、そのあたりから、始まるぜ。」
 ボッシュが頭を振った左手の方向から、床に置かれた空の欠片は、しだいに色を変え始めた。最初は青かった映像が、わずかに黄色を帯び、だんだんと輝くような金色に光り、鏡のような円全体を覆っていった。リュウの手のひらの上の欠片の中を流れる”雲”のふちも、鋼鉄を焼いたときのような金色に変わっていた。水蒸気の塊りが燃えて、金色の焔を上げたりするだろうか。それは焼かれているのだろうか。空は、容赦なく、雲をあぶっていて、”雲”のふちは背景の空に溶け、金色の光が、雲の後ろから漏れているようだ。空はみるみると赤みを帯びていき、気づけば、鏡のような円全体が、燃えるような赤になっていた。その赤は、ボッシュの金色の髪にも、燃え移る。雲を焼いたときと同じように、金色の輝きを強いオレンジ色に塗りかえていき、色は、一瞬たりとも、立ち止まらない。傍らにいる相棒の髪や瞳やうすい色の肌の上に、空の色が移り、燃え立たせ、輝かせ、やがて流れゆくのを、リュウは見守った。それは、目を閉じても、消えない風景となって、リュウの目裏に焼き付けられる。リュウが、手にした映像の欠片を、もとの場所に置くと、その右手を、そのまま相棒のほうへと伸ばした。そこにも、空が映っていた。空の欠片。手袋を脱いだ右手で、ボッシュの頬にかかった髪を指でよけた。雲が作る濃紫の暗い影を指でなぞって、耳元まで追いかける。
「あぁ? なんだよ、お前?」 ボッシュが、乱れた髪をうっとうしがって、頭を振る。
「空なんて、はりぼての作り話だと思ってたんだ。こんなに綺麗な色だなんて、思わなかった。」
「そうさ。昔は、人間は皆、空の下に住んでいた。それは嘘や御伽噺じゃない。いまは、こんな遺跡の残骸の中にしか、残ってないけどな。」
「なんだか、悲しく聞こえる。」
「いや、空は、あるぜ。いまも、俺たちの真上にだ。空と地下世界の間に分厚い蓋があって、そこはメインゲートって呼ばれてる。空への階段だ。厳重に鍵がかけてあって、そこへは特別な人間しか行きつけない。たとえば、メンバーとか、オリジンとか、そういう意味での、選ばれた人間だけが行ける場所だ。」
「そうか。――ボッシュは行きたいの? そこに。」
ボッシュは、薄く笑った。なぜ、笑ったのだろう。その意味は、ずっとリュウの中に、わからないまま、いまも残っている。いつか、行けると思ったのだろうか。それとも、空に行くということ自体を、笑ったのだろうか。
「金色に青。どこかボッシュの髪とピアスの色に似てると思ったんだ。」
「……見てろよ。そのうち、真っ暗な闇の色になる。お前の髪と目の色に似てくるぜ。夜の色だ。空にも夜がある。」
その言葉の通り、空の欠片は、濃紫から濃紺へ変わり、やがて、黒く変わった。だが、洞窟の中の濃密な闇とは違い、真の闇にはならず、ぽつぽつと白く輝く点が闇の中にばらまかれている。ボッシュが、濃紺の欠片を手に取り、リュウに手渡す。リュウは、自分の髪と目の色の痕跡を、その欠片の中に捜した。2人の髪が、闇の中で擦れ合った。ぱちりとはじけるような衝動。黒の中にまたたく白い光が、まばゆく強い線となって、欠けた円を縫い付けるように、流れていった。

END.
作品名:Piece_Of_Color 作家名:十 夜