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Luxurious bone ―前編―

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 ナミはパラソルの下、白いデッキチェアに座り雑誌を読んでいた。
 午後の波は穏やかで、船はその上を滑るように進んでいる。低空には真昼の白い月が浮かび、雲がやわらかに流れている。甘い香りの風が吹く。
 航海士として常に神経を張り詰めなければいけない海域にあって、たとえ僅かでもこんな時間は貴重だ。こういう時は、何もしないことにナミは決めている。甲板でうたた寝したり、爪のマニキュアを塗りなおしたり、航海とは全く関係のない雑誌や小説を読んだりして過ごす。
 ナミが読書を一段落させたのを見計らったように、黒いスーツのコックがトレイを片手に歩いてきた。
 「ナミさん、休憩にレモネードなどいかがですか?」
 サンジは優雅な仕草で身を屈め、テーブルの上にレモネードの入ったグラスとクッキーの載った皿を置いた。
 「ありがとう、サンジくん。・・・あのね、お願いがあるんだけど」
 「何ですか?何でも言ってください、ナミさん」
 長身のコックは少し首を傾げるようにしてナミと目線を合わす。
 「私、今日はお肉よりも魚が食べたい気分なの。白身の魚。鯛とか鱸みたいなあっさりした魚のアクアパッツアがいいわ。もしまだ夕飯のメニューが決まっていないんだったら、だけど」
 「はい、喜んで。ちょうど昨日ウソップが釣り上げた金目鯛の調理法をあれこれと考えてるところだったんだ」
 「ありがとう」
 サンジはにこりと微笑うと、手を伸ばしてパラソルの傘を掴み僅かに斜めに傾けた。太陽の角度が変わるのに合わせて、日陰を調節してくれているのだ。こういう時間、こうやってサンジに甘やかしてもらうのがナミにとって何よりの贅沢だった。
 しかし今日のナミは、コックを少し複雑な表情で見つめた。伸び上がってパラソルを動かそうとしているサンジの横顔は、鼻から喉元に続く端正なラインが空の青に縁取られてくっきりと浮かび上がって見える。
 「サンジくん・・・もう体調は大丈夫なの?」
 サンジは両手を下ろし、ナミを見て瞬きをした。そして寂しげな微笑みを浮かべた。それ以上聞かないで、という拒絶の微笑み。こういう時はこの人に何を聞いても無駄だ、とナミは思う。
 「体調?って昨日のこと気にしてくれてるの。それなら全然平気さ。俺は船で留守番してただけだったし、別に体調を壊すことなんて何もなかったんだから。一日寝たらこの通り、すっかりぴんぴんしてるよ」
 そう言ってサンジは、トレイを脇に挟むとキッチンへの階段を登っていった。
 ナミは小さく溜息をついた。
 昨日、リトルガーデンを出航した後、甲板の上でそれぞれ手を貸しあいながら傷の手当てをした。
 そしてゾロが自ら傷つけた刀傷に包帯を巻くため、ズボンの裾を上げた時のことだった。ゾロに包帯を手渡そうとして屈みこんでいたサンジが、黒くこびりついた血の跡を残す生々しい傷に目を奪われたように動かなくなり、次の瞬間右手で口を覆うと激しく嘔吐し始めたのだ。
 サンジの尋常でない反応に甲板は俄かにざわめきたった。サンジは真っ青な顔色で、甲板に吐瀉物を吐き出していた。慌てて駆け寄ったウソップの手を振り払うと、サンジは立ち上がってよろよろと甲板を横切り、柵に倒れこむように寄りかかって海に向かい再び何度も何度も咳きこんだ。
 ビビはサンジの傍らに走り寄ると、泣きだしそうな表情で彼の背中を擦った。ナミはキッチンに上がりコップに入れた水を持って戻ると、そんな二人の後ろに立った。ルフィとウソップも心配そうな表情でそんなサンジを見守っていた。そんな中、サンジの嘔吐は胃の内容物を全て吐き出しても終わらず、彼はそのまま硬い木の甲板に足元から崩れ去った。甲板に蹲るサンジの血の気を無くした顔は薄青く、瞳は充血し、体は震えていた。
 慌ててクルーたちは彼の元に駆け寄った。しかし、ゾロだけがそんなサンジを無表情に見つめていた。
 キッチンの扉の中に消えていったサンジの後姿を見つめながら、昨日の騒動を思い出していたナミは、決して弱味を仲間に見せようとしない彼の頑なな姿勢にひとつ溜息をつく。
 テーブルの上に広げていたファッション雑誌のページには、赤い服を着てきつい化粧をしたモデルが微笑んでいる。ナミはその雑誌を閉じ、冷たい液体を一口、口に含んだ。
甘酸っぱいレモネードを味わっていると、上部甲板の階段を降りてきたゾロがパラソルの方向に歩いてくるのが見えた。今まで鍛錬に励んでいたらしい剣士は右腕にダンベルを抱え、逞しい肩に脱いだシャツを引っ掛けている。荒く削った彫刻の表面のような筋肉は、太陽に焼かれていくつもの汗の玉が光っている。
 一瞬見惚れてしまいそうになった自分に気づいたナミは軽く咳払いをすると、テーブルの向こう側に立つ男に椅子の背に掛けてあったタオルを投げた。それを受け取ったゾロはダンベルを床に下ろし、体の汗を拭き始めた。
 「あ~あ、そのタオルもう使えないわ。今日おろしたばっかりなのに」
 「あァ?てめぇが寄越したんだろ。ふざけんな」
 「うわっ。あんたピンクの花柄のタオル、死ぬほど似合わないわね。グランドライン一似合わないんじゃない。タオルちゃん、こんな奴に拭かせちゃってごめんね。成仏してね」
 ぎろっとナミを睨んだゾロは、悪戯っぽく舌を出したナミを無視して髪の毛をがしがしと拭きながら、テーブルに手を伸ばし皿の上に一つ残ったクッキーを摘んだ。
 「ダメっ、それ私が最後に残してたやつなんだから!」
 「うるせぇ」
 ゾロはぱくりとチョコレート色のクッキーを口に入れ、もぐもぐと咀嚼する。
 「ゾロのバカっ。チョコレート味、私の大好物なのに!」
 「残しとくお前が悪いんだろ。好物なら最初に食べろ」
 「私は誰かさんたちみたいに食いしん坊じゃありませんから、好きなものは最後まで取っといてゆっくり味わって食べるのが好みなの」
 「へいへい。キッチンに行けばまだあるだろ。さっき行ったらコックが馬鹿みたいな数、焼いてたぜ。そのへん粉だらけにしてよ。大方、ルフィに全部食われてるだろうがな」
 「・・・一日中キッチンから出てこないと思ったら、サンジくんそんなことしてたんだ」
 ナミがキッチンを振り返ると、ゾロは何も答えず船室に向かうために踵を返した。ナミは慌ててその背中に向かって言った。
 「あんた、サンジくんの体が心配じゃないの?」
 肩越しに振り返った男は、眉を僅かに寄せてナミを見下ろしている。
 「昨日のことかよ?」
 「そうよ」
 「・・・今日はなんてことなさそうだったぜ」
 「昨日サンジくんが調子悪くなったの、あんたの傷を見たからだってまさか気づいてないとは言わせないわよ」
 ナミの単刀直入な物言いに、ぴくりと左眉をゾロは上げた。
 「気の小せぇ奴なんじゃねぇか。血見てびびったんだろ。・・・そういや昨日、あいつの恩人の男が無人島で片足を無くしたとか、ウソップが言ってたがな。どっちにしろ俺には関係ねぇことだ」
 「馬鹿な男ね」
 「んだと?」
 どうしようもない、という様にナミが首を振ると、ゾロは鋭い視線で睨み返す。
作品名:Luxurious bone ―前編― 作家名:nanako