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1ミリグラム、メンソール

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 水谷が栄口のことを「主任」と呼ぶようになったのは、大体ひと月前からだった。新しくやってきた上司が高校のころの同級生とは、なんだかとても不思議な感じがしたが、それも三日くらいで、水谷は新しく構築された栄口との関係性をあっさりと受け入れた。
 というのも、実は高校卒業後からまともに連絡を取っていなかったので、十年も昔の自分がどんなふうに栄口と接していたのか思い出せなかった。しかし全く何もないわけではなく、そのあと仲間内で会う機会があったとき、栄口もいたような、いなかったような気が、しないでも、ない。
 栄口とは三年間同じ部活だったし、それなりに仲が良かったし、肉体関係だってあったわけなのに、こんなふうにあやふやな記憶しかないことが情けない。
 なんというか、二人の延長線上にあったものがそれだった。水面へ石を投げ、何回跳ねたかを競う遊びがある。あんなふうにすいすいと段階を乗り越え、至る所まで至ってしまった。ひとことで片付けるとしたら、やはり「若気の至り」だったのだろう。
 その証拠に、それから水谷が男としかできなくなるなんてことはなかったし、普通に女の子と付き合うこともできた。だらしのない性格をしている水谷でさえ元の道へ戻ることができたのだから、常識のある栄口にとっては、より容易かったのではないだろうか。
 ついでに言うなら、水谷と栄口の間に恋愛感情なんてなかった。友達としては好きだったけれど、それが恋かといえば、「違う」とお互い声を揃えていただろう。男が男とやるだけで、背負わなくてもいい十字架を背負わされ、ボクたちとってもカワイソウだね、みたいなのは勘弁して欲しかった。
 ともあれ、栄口も普通に就職して順調に出世しているようなので、昔のことは昔のことと割り切って生活しているのだろう。


 さっき昼飯を買いに行ったコンビニへ、再度ノコノコと顔を出すのが微妙に思え、おぼろげな記憶を辿り、水谷は自動販売機を探す。確かこのあたりで見かけたはずだと覚えていた場所に、つらつらと三台並んでいた。
 栄口がどう思っていたか。それについては、水谷は憶測でしか語れない。尋ねようともしなかった。言葉にして再確認したら全て壊れてしまいそうで、ずっと保留して置いたのだった。だからあんな関係を卒業まで、だらだらと続けられていたのかもしれない。
 ボタンを押した指先に粉っぽい感触がした。目を凝らすと、水谷が触れた一箇所だけ、汚れが拭われていた。おそらく久しぶりの利用者だったのだろう。落ちてきた煙草を貰うため屈んでみると、取り口のフタまで埃にまみれていた。
 すべて壊れる、って一体何を恐れていたのだろう。つむじの上で指がくるりと一回転したような眩暈が、水谷の視界を揺らす。あの頃は明確に分からず、ただとにかく「全部」と思い込んでいたけれど、今なら予想がつく。それは未来だったのだろう。
 しかし栄口も水谷へ歪みを正すような質問をしてくることはなかった。おそらく栄口にも見えていたのかもしれない。言葉にしたって、二人でしていることが常軌を逸していることの再確認にしかならないことを。