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ところにより吹雪になるでしょう

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 昨日は迷いに迷った駅への道もあっさり見つかり、栄口は歩きながらてきぱきと携帯で電車の時間を調べ、水谷の予備校へは余裕で間に合うことを教えてくれた。赤かった空も駅に着くころには薄く濁った白へ変わり、あと数時間もすればきれいな水色の下、また蝉が鳴いているんだろう。
 帰りの切符を手渡されると水谷は自分の金銭的な無力さにまた情けなくなったが、栄口は全然気にしていないようだった。
「ごめん、旅費はあとで必ず払うから」
「いいよ、オレが無理に付き合わせたんだ」
「オレだって好きだからついてきたんだよ」
 疲労で言葉を間違えた。多分正しいのは「嫌々ついてきたわけじゃない」だ。何言ってるんだろう、好きとかありえない。本当にありえない。確かに好きだから嘘を言ったつもりはなく、「好き」の前に「すごく」や「かなり」を付けたい。海ではあんなに臆病だったのに今すらっと言ってしまった自分が信じられない。
「……水谷、ありがとう」
 心の中ではしゃぐ水谷を知らない栄口から返ってきた反応は、自分へ向けてくれる厚い友情に心から感謝するというものだった。要するに栄口は水谷の「好き」をそういうふうにしか受け止められないのだ。そんなこと何度も言い聞かせていたのに、実際栄口から態度に表されると目の前をグーで殴られて星が飛んだ。
 誰かを好きになることはこんなにも不毛だ。どれだけ時間を費やしても、どれだけ辛くても、相手がこっちに好意を持ってくれない限り報われることはない。疲れた水谷には片思いが本当に成果のないものに思え、栄口に特別な感情を抱いていることを後悔した。
 それでもまたいつか自分は誰かに恋をするのだろうか。
 水谷の肩へ栄口の頭がもたれ掛かり、驚いて相手の顔を覗くと目は伏せられていた。始発電車の中に数人しかいない乗客も皆散り散りに車両を選び、ここには二人しかいない。向かいのぼやけた窓に映る栄口は確かに目を閉じ熟睡しているようだったが、それよりも水谷は自分の顔が変に緊張していて苦笑いした。誰も好きにならないことはないだろうけど、もうこんなにしんどいのは最後にしたい。
(……キスしたいなぁ)
 肌がひっ付いた部分から栄口の体温がにじむ。わずかに横に揺れる電車の振動に合わせ、暖かい温度はゆらゆらと水谷を染めた。しようと思えばできるけど、もう何を望むのもつらくなるようで、諦めた水谷が目を閉じると昨日の寝付けなさもまるで嘘のように眠くなる。まぶた越しに日の光を感じつつも、電車が規則的に線路へ刻む音はすぐに遠くなった。
 すべての意味で水谷の夏は静かに終わった。