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ところにより吹雪になるでしょう

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「あっ、すいません」
 栄口が顔を上げると先程授業は終わったらしく、腕にぶつかったのは教室から出て行こうとする人の鞄だった。夏が近づいているからとはいえ随分ひどい夢を見たものだ。ずっと机に伏せていたせいで少し軋む腰を握りこぶしで叩きつつ、今日はバイトを入れていたことに気づく。だるくて仕方がないのだが行かねばなるまいと席を立つ。
 構内は授業を終えて帰る人と教室移動をする人が交じり合って複雑な混み方をしていた。それらの波を上手に避けて正門を目指す。
 水谷との距離は、気安く家を行き来できた以前とは比べものにならないくらい遠くなった。近づこうとせず、自分から遠ざかっていったのだから自業自得だった。遠ざかることに甘んじるのもまた奢りなのだろう。たとえバッドエンドが待ち構えていたとしても、ちゃんと気持ちを伝えていたらこんなにいい加減な人間にはならなかったのかもしてない。
 栄口は水谷から離れることを選んだ。何をするにも弱くて無力だったから、自分のしたいことをするよりも、しなければいけないことを常識的に片付けるほうが格段に楽だった。
 水谷の答えなんて栄口は求めていなかった。知ってすべてを終わらせるのがたまらなく嫌だった。あの夏の栄口が何一つ希望を叶えられなかった今の自分の姿を見たらきっと落胆するだろうけど、過ぎてしまったことだから今更どうにもできない。
 埼玉へは夏休みと正月に帰省していたが、水谷へ連絡を取ることはせず、ただ「会いたい」とだけ淡くゆらゆらさせていた。今だって会えるのなら会いたい。
 会いたいのだけれど、勇気が足りなくていつも遠回りばかりしていた栄口が意を決して公園で待ったあの冬の寒い日、やっぱり水谷は来なかった。
 今日もその重しに希望を押しつぶし、栄口は傾きつつある西日が照らすバイト先までの道を急ぐ。