二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ところにより吹雪になるでしょう

INDEX|16ページ/36ページ|

次のページ前のページ
 


 暗い部屋の中で壁紙の模様だけ見ていた。一度横向きになってしまったら寝返りを打つのもわざとらしい気がして、ずっと同じ体勢でいた。緊張しすぎて突っぱねるような短い言葉しか出なくなってしまった自分を水谷は変に思わなかっただろうか。
 いくら道に迷って疲れているからといって、まさか水谷がオレの手を強引に掴んで中へ連れ込むとは予想していなかった。時々その有無を言わせない行動を自分の都合のいいように勘違いしたくなる。おかしいかなぁ、おかしいよなぁ。
 第一今から海に行きたいなんていう馬鹿げた誘いに乗る水谷も相当な馬鹿だ。でもすんなり「いいよ」と言われたときはさすがに嬉しかった。本当は海じゃなくても良かった。話の流れで海にしてしまっただけで、水谷と一緒にどこか遠くへ行けるならそれで十分だった。
 オレの好きな人はいつもかわいいのに時々すごく男らしいところがあって、その意外な一面を見るたび、ぐっと惹きつけられる。掴みどころがなく何を考えているのかわからないと人は例えるが、むしろそこがいい。
 今まで一緒にいれてすごく楽しかったけど、多分終わりは近い。この夏休みが過ぎれば将来のことをどんどん考えていかなければならない。どの未来も選ばずにこのまま高校生でいれたらいいのに。それか高校一年で水谷と初めて会ったときまで時間を戻してもらってもかまわない。これから待ち受けているものはかなりの確立で自分と水谷の仲を裂くものだろう。オレは変わらないと誓えるが、染まりやすい水谷はきっと変わる。
 たまらなく嫌だけど、何かをするということ自体が奢りに思えてならないし、かといって何もしなければ後悔する。それに自分が何かをしたところで事態が変わるのかと言われれば、それは微妙なところだと答えるしかない。
 もっとも正解に近い答えが見つからない。不正解だけがぽんぽん浮かんでくる。自分の好意を全て水谷に告白してしまうのが、一番大きくバツを書かれる答えだろう。だって水谷はせいぜいオレのことを気の合う友達程度にしか認識していない。
 好きになるんじゃなかったな、とはあまりに虚しいので極力思い出さないようにしていた。特にこの間女の子に告白されてからというもの、水谷は人の気も知らないで嫌な質問ばかりしてくる。誰? かわいいじゃん? なんで振ったの? なんて水谷にだけは知られたくないのに。とどめは「つきあえばいいじゃん、もったいない」だった。ぶん殴ってやろうかと思った。最近のヒット「彼女ができたら絶対教えろよ」をへらへら言われたときには、つい抑えきれず「水谷なんか好きになるんじゃなかった」と心の底がわなわな震えた。
 そんな沸々とした気持ちを向けている相手とダブルベッドで寝るなんて幸か不幸かわからない。水谷がバスルームに行っている間はどうしようとうろうろしていたし、自分の番になってシャワーを浴びても、ぐるぐる考え事をしていたせいでちっともさっぱりしなかった。
 風呂から上がると水谷が体育座りをしたままの体勢でなぜかベッドの上へ転がっていた。わからない。
 眠りにつけない頭の中は水谷でいっぱいで、このベッドでオレは相手とどうしたいのかへ思考をめぐらすと自然に顔が赤くなった。だって高校生なんだし、妄想するくらいは許してほしい。けどここは普通に寝てしまうのが一番正しい行動だと知っている。水谷に自分は変態だとは思われたくない。
 そうなんだよなぁ、ちょっとだけでいいから水谷とキスしてみたいなんていうのは十分変態なんだよなぁ。
 水谷も寝付けないのか何度もベッドから起き上がっている。靴ずれしていたから、水谷はすぐにでもどこか休めるところを探してくれたんだろうけどここはすごく落ち着かない。水谷とこんなことになるのは最初で最後、高校生活最後の夏でどこか気が早っていたから起きた偶然だ。それなら、いっそこのおかしな空気に身を委ねて、ずっと言えなかったことを言い、してみたかったことをしたい。
 でも好きだなんて言ったりしたら引かれるだろうなぁ。
 あのへらへら顔が強張って言葉を失う様子が容易に想像できる。付き合いが長い分、拒絶されたらきっと立ち直れなさそうだった。それに水谷と過ごせるあとわずかな数ヶ月を一瞬の気の迷いでだめにしたくなかった。
 でも好きなんだけどなぁ。