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ところにより吹雪になるでしょう

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 いつだったか、これ程ひどくはなかったけれど高校のグラウンドにも雪が積もったことがあった。雪を早く溶かすために始まった雪かきがいつの間にか雪合戦になり、栄口もあいつも手を真っ赤にして雪を投げ合った。かじかんだ手を解凍しようと自動販売機で温かいココアを買い二人で飲んだ。甘いね、ココアだもんそりゃ甘いよ、そういうやり取りのあと意味もなく笑いあった。雪玉の直球をくらった頭は大分濡れていて、お前風邪ひくよと差し出したタオルは人懐っこい笑顔に受け取られた。
(ありがとー、さかえぐち)
 その数日後、懸念どおりに風邪をひき、鼻をすすりながら歩くあいつの隣に栄口はいた。
(こんなことばかりどうして覚えているんだろう)
 不意に靴がずるりと前へ滑ったら釣られて足も浮き、準備をする間もなく路肩に寄せてあった雪の上へ腰がどすりと落下した。てっきりやわらかいと思ったそれは意外と硬く、打ちつけた箇所がじんじんと痛む。脇に投げ出された傘は衝撃で派手に軸が歪み、何度か動かしてみたがもう使い物にならないようだった。
 栄口は壊れた傘を適当にたたみ、腰についた雪を払うと、学校までの道をまた淡々と歩き出した。白の濃淡でしかない世界では距離も時間もうまく掴めない。頭の上に降り積もった雪が体温によってじわりと溶ける感覚が気持ち悪い。
 学校に近づくにつれ、歩道へとつけられた足跡はだんだん多くなったが、降りしきる雪のせいか同じ道を行く人の群れは一様に無口だった。もはや雪まみれのスニーカーは中の靴下まで嫌な感じに濡れてしまっている。前を行く人は傘を差している人がほとんどだったが、ほっかむりのようなものをしている人もいる。それを見て栄口はようやく自分の上着にもフードが付いていたことを思い出し、それを被ってみるのだが、中に入っていた雪がそのまま首筋へと移動したから変な声が出そうになった。雪がこんなに大変なものだとは知らなかった。
 栄口がここに来て二年が過ぎようとしている。あの頃は確かに「こうするのが一番いい」と選んだ未来のはずなのに、未だ自分はどうしてここにいるのかわからない。距離も時間も水谷を忘れさせてはくれなかった。踏まれた雪のように、外側は汚らしいが中身だけは真っ白のままで、上からの重みのよって溶かせないほど硬くなってしまっている。
 結局栄口が本気で望まない限り、変わらない、変われないのだった。未だ水谷のことが好きなのは自分がそうしたいからだという、当たり前のことに気づくのに時間がかかった。
 ひとひらの雪が瞼の上であっという間に溶け、栄口は思わずまばたきをした。その一瞬の闇に、部活が終わったあと少し髪を伸ばし、紺色のカーディガンをだらしなく着こなした十八歳の水谷がへらりと笑う。
『みずたに』
 声の代わりに栄口が切れ切れに息を四回吐き出したら、ここにあるのは絶望的な距離だけだった。