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ところにより吹雪になるでしょう

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 野球が終わった後、待っていたのは今まで遠回しにしていたこれからのことで、家で勉強をするなんていう習慣がない水谷は予備校に入れられることになった。進路について見当すらつけていなかった様子は親からしてみれば不安で仕方なかったのだろう。みんなが勉強している場所に行けば文貴もその気になるんじゃないか、なんていう親のもくろみは早くも崩れ去り、毎日毎日栄口のことを考えて退屈な講義時間を潰すのが水谷の日課だった。
 第一この予備校を選んだのは栄口の家の近くにある、コンビニの近くという不純な動機からだった。部活が終わってしまい、自分と栄口の間で共通していた重要な項目が抜けてしまったのを補うひとつの手段だった。
 しかし水谷がそう企んでも、ドラマのように栄口に会うことはなかった。
 野球用具よりも明らかに軽いのに、なぜか肩にずしりと重い勉強道具が入ったバックをぶらさげて、会う約束もしていない栄口をコンビニで待ってみる。水谷はそういう偶然を、必然を作りたかった。
 今日もダメかと諦めがちにコンビニから遠ざかろうとすると、影の伸びる方向から久しぶりにあの声に名前を呼ばれた。暑い日に飲む炭酸飲料みたいに、無数の泡が水谷の心にこみ上げる。
 手を振る、駆け寄る、「オッス」なんて軽い挨拶。いつもの栄口がいつもどおりすぎて水谷は普通にしていられない。変に浮かれていたり、顔が赤くなっていたりしないだろうか。
「どこ行ってたの?」
「駅前にCD買いに行ってた」
「えー、俺を誘ってよぉ」
「お前予備校通いって言ってただろ」
 実際今日は模試だったけれど、そんなことどうでもいい。オレの夏はこういったことに費やされるべきだ。駄々をこねる水谷に苦笑いを返した後、ふっと栄口の瞳の色が落ちる。
「今まで野球ばっかでさ、欲しいの買っても聞くヒマないから後回しにしてたんだ」
 夏の終わりを告げる蝉の鳴き声がカナカナと耳に不快だ。栄口は水谷の胸元の辺りを見て言葉を続ける。
「いざ今日買いに行ったら全然欲しくなくなってて、何も買わないで戻ってきた」
 その気持ちは水谷にもなんとなくわかる。あのときはそれがすべてで、三年間ずっと打ち込んできた野球が毎日の生活からなくなったらどうなる? なんてすべてが終わった後じゃないと考えられなかった。
 部活のない生活はとても不思議だ。早起きしなくてもいいし、遠征も練習試合ももはや自分とは遥か遠くにある。今は夏休み中だからまだいいが、これから学校が始まったらどうなるのだろう。朝練はもうない、グラウンド整備のために急いで昼食をかき込まなくてもいい、放課後はきっと持て余すくらい暇なのだろう。そういうふうに大体のことは想像がつくけれど実際こなせるかは別で、想像してみるだけで味気なく虚しい気がした。
 進路や受験、自分は栄口とどうなりたいのかとか、まだうやむやにしておきたいことが山ほどあるのにその隙間へ容赦なく現実は割り入ってくる。
「水谷、部活終わったら泉とかと海行くって話してなかったっけ」
「あー……」
「あれ? 結局行ってないの?」
「なんか部活終わったらそういうのも」
 栄口がその話を聞いていたのは意外だった。それはみんなが行けば栄口もきっとついて来るだろうという意気地なしな水谷の安易な企みだった。いいな、いいよな、絶対行こうぜ! そうはしゃぎ合っていたけれど、いざ部活が終わったらその話を持ち出す奴はいなかった。