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ところにより吹雪になるでしょう

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 寝返りを打つとすぐに夢は崩れ、未だ寝ぼけた目で見た枕の色は確かに自分のものだった。もう一度眠りにつこうとがんばってみたけれど妙に目が冴えて難しく、ようやく諦めた水谷はおもむろに数回瞬きをしてみる。瞼の裏であの笑顔がこびりついて剥がれない。
 夢を見た、たったそれだけのことなのに現実へ戻されたときの空しさは一日のやる気をすべて奪ってしまう。時計の針を数えたら急いで身支度を整えればなんとか授業に間に合うという時間だったが到底そんな気にはなれず、億劫に布団の中から手を伸ばし、リモコンでテレビの電源を点ける。画面は西から東へ各地の天気予報を流していた。今日も曇り、降水確率十%。そのまま水谷の視線は画面をさまよい、いつもの悪い癖で栄口が住んでいるところを探してしまう。正直未練がましいを通り越して我ながら気持ち悪い。
 栄口の通う大学があるそこは、白い雨を背景に雪だるまが佇む、見慣れないマークがついていた。
『…北北西の風が時折激しく、ところにより吹雪になるでしょう』
 ふぶき、と思わず繰り返してしまった言い馴れない言葉が暖房のつけていない部屋に響いた。抑揚のない声でアナウンサーはもう次の場所の予報を告げているが、確かに「ふぶき」と言った。吹雪とはどんな景色だろう? 天気予報の簡素な記号だけじゃとても理解できない。
 枕元に置いておいた携帯電話が鳴り、メールの着信を知らせる。同じ授業を取っている阿部から一言『一限は?』と打たれたメールに返信はせず、水谷はのそりと毛布から出た。冬のピリピリとした冷気が皮膚を強張らせ、ますます学校へ行く気がなくなったが、次の授業も阿部と一緒なのでノートを写させてもらう立場としては休んでしまうのは良くない。とはいえ面倒だし腹も減っていないしで朝食を食べる気分にもなれない。だるいからこのまま食べずに出かけてようとするけれど、足を通さなければいけないジーンズの冷たい感触を予想するとどんどん動きが鈍くなる。
 つけっぱなしのテレビは雪の降りしきるどこかの地方都市を中継している。全体が灰色に覆いつくされたそこは本当に人が住んでいるのだろうかというくらいひっそりとしていた。栄口のいる場所かどうか確かめる前にまた興味のないワイドショーが流れ出したから、水谷は速やかに邪魔なテレビを消した。すると黒い画面に、ぼさぼさ頭で生気のない顔と、ろくに片付けもしていない乱雑な部屋が映る。
 最近の自分と言えば、寒くなるにつれて前にも増して学校に行かなくなり、一週間前にとうとう彼女から愛想を尽かされて、バイトは大分前からしていない、死んではいないけど生きてもいない生活を送っている。すべてが面倒でどうなってもよかったから、安請け合いもすっぽかしにもお手の物、近頃では言い訳すらもしなくなった。
 変わってしまったオレを、遠くの栄口は一度でも思い出したことがあるだろうか。オレの知らないところできっと変わっている栄口を、オレは許すことが出来るだろうか。
 二年も経つと涙も枯れてしまったが、今でも水谷は時々そんなことを反復する。