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永遠に失われしもの 第10章

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ラウル刑事が退室して、
 セバスチャンは警官によって、
 署の地下にある留置場に連れて行かれた。

 
 「やっぱり上流階級とやらの考えることは
  さっぱりわからねぇなぁ」

 
 漆黒の執事に、再び手錠をかけて
 移動させる途中でしがない中年の警官が、
 同僚の若手につぶやく。


 「全くですね。
  女にバッチリもてそうなこんな奴が
  何を好き好んで、男に走るんだか・・

  しかもガキ相手に」


 「大方、こいつもガキの時分に、
  同じことをされた、トラウマとかって
  やつなんじゃねぇのか?」


 --人間の想像力のたくましさには
 いつも驚かされますね --

 
 漆黒の黒髪にまぎれて、セバスチャンは、
 ひそかに軽蔑の笑いを浮かべているが、
 警官はそれには気づかなかったようだ。


 その漆黒の燕尾服を来た、
 長身ですらっと細身の凄まじい美貌の
 執事が署に連行されたときから、
 署内では彼の話で持ちきりであった。

 彼の容姿のみではなく、
 その彼にかけられた嫌疑が、一般の社会で
 最も禁忌とされていたものだったことも、
 さらに拍車をかけていた


 男色・少年強姦・聖職者殺害の嫌疑である


 もっとも聖職者殺害については、
 令状をとれるほどの証拠もなかったので、
 一部のものしか、まだ知らなかったが、
 いずれそれが広まるのも
 時間の問題だった。


 地下の留置場は、狭い通路を隔てて両側に
 大きな部屋が並び、
 檻のように金属の鉄格子で隔たれている。

 薄暗く、じめじめと湿気に満ちており、
 酔って捕まった男たちの、酒臭さや、
 事件を起こした際に
 傷を負ったのであろう男の血の匂い
 が混ざった悪臭がたちこめていた。


 警官は、明らかに場違いな服装をした
 セバスチャンの手錠と腰紐を外すと、
 看守に彼の身柄を委ねた。

 いかつい大男でいかにも気の荒らそうな
 看守が、拘置者の貴重品や、
 凶器となりそうなものを預かるために、
 持ち物を検査し始める。

 セバスチャンの燕尾服の内ポケットから、
 携帯用のナイフやら、なぜか大量の
 食器用のフォークやナイフが取り出され、
 懐中時計も外され、そのポケットの奥から
 金の鍵のついたペンダントが回収された。


 セバスチャンの目が一瞬紅く光る。


 看守は何かを感じて、
 セバスチャンを見たが、
 先程同様、その執事は何も感情を表に
 していない。

 所持品検査が終わって、看守は
 一番奥の留置室とよばれる檻の中に
 入るよう促すと、
 下卑た笑いを口元に浮かべた。


 「せいぜい可愛がってもらうんだな、
  美人さん」


 その檻だけ、他の檻とちがって、
 不気味な静けさが漂っていた。