永遠に失われしもの 第10章
地下の留置場の火災を知らせに、
警官がラウル刑事のもとに走り帰った。
報告では、消火活動どころか、
人が近づける状態ではないという。
「恐らく・・中の・・者の生存は・・
望めない・・かと」
警官が息を切らしながら、
ラウル刑事に報告した。
・・火の回りが速すぎる!・・
自然発生的な火災でないことは、
確かだ・・
・・そして、このタイミングで、
エット-レ卿殺人事件の重要参考人である
セバスチャン・ミカエリスが死んだと??
・・上部は、彼をいざというときの犯人に
と考えていたはずだ・・
・・では一体誰が??
ラウル刑事の脳裏に浮かんだのは、
十四歳とは思えないほどの大胆不敵かつ
高慢に微笑むオレイニク公爵であった。
オレイニク公爵家が存在することは、
ラウルが秘密裏に頼んだ、
ドイツ秘密諜報部からの情報で
分かっている。
・・彼がオレイニク公爵を装った
誰かであることは明白だ・・
あの少年は一体何者なのだ?・・
そして一体何故公爵になりすまし、
卿に会い、殺さねばならなかったのか?
ラウルの刑事には、少年がある団体と
結びつきがあるのではないかという疑惑を
次第に高めつつあった。
六年前に、その組織の末端の構成員が
法王の暗殺を企てて未遂に終わり、
自殺して以来、彼らは地下に深く潜行し、
今では、すっかりその存在すら
忘れ去られようとしている組織。
・・・ロッジ!・・
彼らはフリーメイソン系のイタリアの
結社で、フリーメイソンを通じて、
世界各国の同様な結社との
連携を保っている。
組織については、イルミナティと呼ばれる
シンボルを使用していること以外は
何一つはっきりとは分かっていない。
ほかの各国のメイソンの結社同様、
構成員が上流階級や支配階級に大きく、
広がっているらしいこと、
また何かしらの悪魔崇拝、
もしくは悪魔召還のための黒ミサを
定期的に行っているらしいことが、
まことしやかに噂されているが、
真偽の程は、組織の中の者でない限り、
生涯知りえることはないだろう。
あの少年は、ロッジのメンバーで、
あの執事は少年に雇われた殺し屋
ということか?
ラウルは初めて彼らの出会ったときの、
戦慄するほどの美しさと、得体の知れない
不気味な影を、今一度思い起こしていた。
突拍子もない、そして何の証拠もない
自分の想像が、彼らの姿を思い返すと
あながちまるっきり的外れでもないように
ラウルは思えた。
報告にきた警官に、消防署への連絡と
出来る限りの消火活動への協力を命じて
去らせた後に、ラウル刑事は机の上の
電話に手を伸ばした。
「もしもし?ええ、私です。
あの件について、至急お伝えしたい
ことが・・はい・・ではいつもの場所で」
その時セバスチャンは、
警察署のラウルの座る席の窓の外にある、
高い樹木の枝の木漏れ日の中に、
口元に皮肉な微笑をたたえながら
潜んでいた。
--ほう、ラウル刑事
貴方のコネは、ドイツ陸軍
秘密情報部将校ディーデリッヒ大佐
でしたか。
素晴らしい売国奴ぶりです。--
作品名:永遠に失われしもの 第10章 作家名:くろ