永遠に失われしもの 第10章
暗く湿った地下の留置場内にずるずると
何かが引きずられる音がする。
看守の枯れた葦のような髪が
セバスチャンによって掴まれ、
その汚れた廊下を腹を下にして
引きずられ、
廊下は血で汚されていく。
看守用の机までたどり着くと、
漆黒の執事は、意識のない様子の看守を
椅子に座らせ引き出しから取り上げられた
シルバーのナイフを内ポケットに入れ、
懐中時計の鎖をボタンに引っ掛け、
ウオッチポケットに入れる。
そして、最後に金の鍵のついた首飾りを
そのポケットの奥底に沈めた。
看守の髪をもう一度掴み、
その顔を机に倒す。
「それではよくお休みくださいませ」
そして、別の引き出しから、
留置場の収容者リストと、
所有物リストを引き出すと、
優雅な手つきで、
それらを机の上の蝋燭の火にくべる。
セバスチャンが白いその顔を蝋燭に近づけ
その火に息をそっと吹きかけると、
一瞬にして炎が燃え上がり
辺りを包み込む。
「助けて・・・くれ・・ぇ~・・・」
「ここから出して・・」
留置場内のあらゆる檻から
呻き声と叫び声が響き渡る。
「申し訳ありませんが、
ご期待には添えません。
あなた方は見てはならぬ物
を見てしまったのですから」
口角を上げて、薄っすらと口を開け、
微笑するセバスチャン。
ラウル刑事に言われて、セバスチャンを
連れに来た警官が地下への階段を降り、
留置場の重い鉄扉を開けると、
そこは既に地獄の炎のような
業火に完全に包まれていた。
作品名:永遠に失われしもの 第10章 作家名:くろ