その唇で蝕んで
「………は」
吃驚するよりも先に思考が停止して現状把握が追いつかない。
ただ唇の柔らかく、あったかい感触を感じるだけ。それは一瞬だったのか、数秒だったのか、時が経っているのかもわからないほど俺は混乱した。そしてゆっくりと離された唇。指で触ると感触がまだ残っているのか、俺は自分の顔が赤くなっていくのがわかった。
どうしてこうなった。
そんな意を込めてシズちゃんを見ると、俺と同じく耳まで真っ赤になっていた。
「お前…今日、お前の誕生日」
「俺の、誕生日…?」
「去年と、一昨年も…俺の誕生日の時にキ、キスしてきたから…そのお返しだ!」
「…そういえば、そんなこともしたかな」
「っ、忘れたとは言わせねーぞ!」
いや、忘れるわけないじゃない。だってアレが俺の初キスなわけだし。なんでシズちゃんなんか選んだのかだって、今だってちゃんとわかってる。
見下ろされている俺は下からシズちゃんの顔を覗き込むと笑った。
目の前で真っ赤になって瞳に涙を溜めて俺を見ているシズちゃん。
つい、笑いが込み上げてきて、遠慮もなく声を出して笑ってしまった。
「まったく…君は本当、俺の予想を遥かに超えてくれる」
「臨也…?」
なんだよ。俺の誕生日、覚えててくれたんだ。あんな罰ゲームでやったみたいなキス、覚えてたんだ。二回もアタックして何の反応も得られなかったんだ。去年のあの日以来、シズちゃんが俺に気がないんだと思っていた。
だからシズちゃんを思うことを止めたのに、自分の誕生日に仕出かしたことを悔やんで忘れようとしてたのに、振り出しじゃないか。
一回好きになっちゃうと、もう振り切れないもんなんだね。
俺の場合は初恋だし、重症なんだろう。厄介だなあ。
「化け物の癖に。シズちゃんの癖に生意気」
そう言って、今度は俺からキスを仕掛けてみた。
きょとんと阿呆面で呆けている彼にもう一度、そっと口付ければ、やっと意識を取り戻したシズちゃんが口をパクパク開閉させる。
それが生け捕りにした魚みたいで面白いから同じ行為を繰り返して、暫らく彼の意外に柔らかい唇を堪能していた。
その唇で蝕んで