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だぶるおー 天上国 王妃の日常4

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待っている、とは言ったものの、部屋でぼんやりしているのも飽きたので、刹那を迎えがてらに外へ出た。ハロが、それを止めようとしてくるが、「一緒においで。」 と、命じれば、ハロハロハロとついてくる。ハロは、ディランディさんちに居ついている精霊だから、フェルトよりニールの命令が優先だ。

 戦争というのをなくしたい、と、刹那が言った事に、ニールだけでなくライルも、大喜びした。外へ出ている人間は、いつも悲惨な現場を目撃している。魔法力があれば、多少でも助けられるのだろうが、ニールやライルは、己の身を護るだけで精一杯になる。
 戦災で親を亡くした子供たちや、同じように殺された死体が山積みになっている場所を、何度も見た。疫病が流行らないように、死体を山積みにして焼いている場所もあった。王国の周辺では見られない光景だ。自国の周辺では争いは起こらないし、起こっても、自分たちで早急に片付ける。だから、王国の人間は、こんな悲惨な現状を知らない。とても自分たちが無力で遣る瀬無い思いにさせられる。刹那だって、フェルトだって、そうだ。本当なら、両親と穏やかに暮らしていたはずなのに、戦争が、それを奪ったのだ。
 だから、戦いのない世界が欲しい、という刹那の願いには、一も二もなく賛成した。なんの罪も無い子供たちが死んでいく世界がなくなればいいと思ったからだ。

・・・・けど、実際、俺は何もできてないよな。・・・・

 刹那が望む世界を作るために力を尽くすということができていない。どうすれば、戦いがなくなるのか、それすらも模索している最中だ。もっと、人材があれば、それに答えが出るのではないか、と、ニールは考えている。だから、外へ行きたいのだ。少しでも、その答えを知っている人間が居るのなら、教えて欲しいし、協力してくれそうな人は、王国に召還したい。少しずつでいいから、刹那の夢が形あるものになれば、ニールは満足だ。それが、自分の仕事だと思っている。

 城の住人は出払っているのか、誰とも会わないままに、王の執務室まで辿り着いた。扉を開けようとしたら、内から勝手に開いた。顔を覗かせたのは、妖精王その人だ。
「陛下、お急ぎですか? 」
「なぜ、歩いてるんだ。」
「具合が良くなったので、お手伝いに参じました。」
「護衛も連れずに歩くな。」
「中へは入れていただけませんか? 」
 公式の言葉遣いで頭を下げると、王は背後に踵を返す。執務室も、王だけだ。どうやら、みな、出払っているらしい。建設資材の調達や、周辺の村への手伝いなどが重なったのだろう。そうなると、魔法力のある城の住人が出かけていくしかない。
「忙しいのか? 」
「ああ、大風で、あっちこっちの村で被害が出た。」
 いつもなら、刹那も出かけているところだが、今回は留守番をしている。ニールのことが気になっていて出かけられなかったからだ。
 乱暴に椅子に腰掛けて、刹那は書類を手にする。事務仕事のほうを任されたらしい。これなら、ニールでも手伝える。魔法力が必要な仕事には、ディランディさんちは向かない。
「フェルトから、いちごだ。とりあえず、休憩したらどうだ? 」
 一掴み残したいちごは、そのままハンカチで包んで運んできた。せっかくだから、刹那にも食べさせてやろうと思った。
「伝言は聞いた。」
「ああ。すまないな、怒鳴って。もう怒ってないから帰って来い。」
 積み上げられた書類の上から何枚かを手にすると、ニールは、さらりと、そう言って、ソファに座り込む。決済が必要なもの、日報、輸出入の報告書、そういう書類だから、チェックすればいいだけだ。こういう仕事なら慣れている。確認して、おかしなところがあるのは撥ねて、別の場所に積む。問題がないのは、また分けて別の場所に、ということをして、書類の束がなくなったから顔を上げたら、刹那が、こちらを見ていた。いちごも、そのままだ。
「すっぱくないぞ? 」
 どっこいせ、と、整理した書類を執務机に戻して、新しい書類を手にする。それでも、刹那は睨んだままだ。
「ん? 」
「俺は我侭か? 」
「はあ? 」
「フェルトに我侭が過ぎると叱られた。」
「え、あー、いや・・・・ちょっとぐらいの我侭は、王なんだから許されるんじゃないか? おまえさん、この国から出ることはできないんだからさ。王国を護るために魔法力を使っているんだしな。」
 この王国を護るため、刹那は、天上の城に暮らしている。国の内なら、どこへでもいけるが、それほど大きな国ではない。馬で、一日で往復できるぐらいの広さだ。そこに閉じ込められているのだから、少しくらい我侭でもいいと、ニールたちは思っている。国を維持するために、刹那は働いているのだから。
「あんたが怒鳴るぐらいの我侭はいけない。」
「・・・・あれは・・そうじゃない。いや、そのな、俺も男なんでな。なんていうか・・・ちょっと加減してくれると嬉しいってぐらいのことだから。」
 まさか、気持ち良すぎておかしくなりそうで怖いから加減してくれ、とは、ニールも言えなくて、お茶を濁した。
「あんたは、俺を甘やかす。」
「そりゃ、大切な王様だからな。」
 はいはい、大丈夫だから、と、頭を撫でてニールはソファへ引き返す。すでに、この態度が甘やかしだ。
「とにかく、まずは仕事を片付けよう。」
「わかった。」
 積み上げられている書類を見上げて、ニールが言うと、刹那も意識を切り替えた。まず、こなさないと仕事は終らない。無言で、書類とにらめっこだ。時たま、刹那はイチゴを口にする。咀嚼する音と書類を捲る音しかしない静かな時間は、瞬く間に過ぎた。積み上げられていた書類を、分類してしまえば、仕事は完了だ。
「再提出の分は、アレルヤのところへ戻しておこう。こっちは、ハレルヤの関係。それから、これは、クラウスさん、これは・・・・おやっさんかな。」
 各人の担当のところへ、問題のない書類は返しておく。再提出の分は、問題点をメモして貼っておいた。分類して、刹那が各人の部屋に書類を飛ばしてしまうと、本日のミッションは完了だ。
「お疲れ様。捌くのが早くなったな? 」
「読むのに慣れた。」
 王になってから十数年もすると、こういうこともできるようになる。最初は、報告書一枚に、随分とかかっていた。
「フェルトに駆け落ちを求められたんだろ? 」
 やれやれとソファに座ったニールに、刹那は爆弾発言をかました。だが、ニールも驚かない。
「なんか疲れた顔してたから、心配してくれたんだよ。」
「俺に愛想が尽きても離すつもりはない。追い駆けて連れ戻す。」
「尽きねぇーよ。おまえさんの夢は、俺の夢でもあるからな。全力でサポートするぜ?」
「世界から戦いを失くすことか? 」
「ああ、そうだ。」
「それが叶ったら、それからはどうするんだ? 」
 まだまだ下準備もできていないのに、その先のことを言い出した刹那に、ニールは苦笑する。
「どうするんだろうな。その頃には、俺もいないかもしれないぞ。」
「それはない。あんたが、望むなら今でも可能だ。」
「は? 」
 刹那も、ニールの横に座った。そして、真面目な顔で、とんでもないことを言い出した。