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だぶるおー 天上国 王妃の日常4

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「三つの大国の王都を壊滅させて、人間の数を、今の半分にすれば、戦いは起こらない。それぐらいなら、俺一人でも可能だ。あんたが早急に平和な世界を望むなら、そうする。」
 自分の魔法力から鑑みれば、それが一番早い方法だと、刹那は辿り着いていた。人が減れば、戦いは減る。それも、王都を滅ぼせば、政治中枢の再構築で戦いどころではない。だから、それが、一番、早いのだ。
「刹那・・・それは。」
「もちろん、この方法は、王都の人間を全て滅ぼすから、そこにいる人間は死ぬ。だが、後に平和が来るための犠牲としては、俺は認められる。」
 犠牲なくして、戦いは終らない。どうせ、戦いが始まれば、そこで人は死ぬ。その数と、王都で死ぬ人間の数は変らない。どこかで死ぬのだ。それなら、王都でヌクヌクと暮らしている人間が犠牲でもいいだろう。
 確かに、政治中枢の人間を滅ぼせば国は混乱して崩壊する。そこから、新たな国が立ち上がってくるまでは、戦いは起こらない。もし、起こすなら、そこを叩けばいいだけだ。そうやって、人間の数を管理すれば、戦いは起こらない。
 ずっと、刹那が考えていたことだ。その方法なら、こちらに被害もないし、戦いを挑まれることもない。
「それが、妖精王が望む戦いのない世界なのか。」
「早急に、ということならな。意識の変革をしていくのは時間がかかる。あんたが、望むなら、俺にはできるということだ。」
 いつのまに・・・と、ニールは驚く内容だった。そんなこと、一言も聞いたことはなかった。そして、それができると断言する刹那の魔法力の強大さにも気がつかなかった。
「俺が望まないなら? 」
「じっくりと腰を据えて、人間の意識を変革するところから始める。戦いは無意味だ、ということを理解させるには時間がかかるだろう。イオリアも、同じことを考えていたが、面倒だからやらなかった。ソレスタルビーイング自体を大国にするという手もある。四つ巴になれば、どこもおいそれと戦いはしないだろう。」
 刹那だけが教授されたイオリアからの直接の帝王学というものは、極論も含まれていた。人間というものは忘れっぽいから、管理するつもりがあるなら、世界を制覇するのも手だ、と、教えられた。ニールと穏やかに暮らしたい刹那としては、そんなことで忙しくするのはイヤだったから、数を減らす方法を考えたにすぎない。
「あんたが望むなら、俺は、やれることは全部やってやる。その後、どうしたいのか教えてくれ。それによって、やり方は決める。」
 考えていたのは、刹那の手助けをしたい、ということだけだ。刹那から、その後のことを求められることなんか、ニールは考えていなかった。
「俺は、おまえの夢が叶ったらいいなって思ってただけだ。そんな、後のことなんて考えてなかったよ。」
「俺は、あんたとずっと一緒に暮らしたい。あんたが外へ行かなくても暮らせるような王国にしたいと思っている。」
 それが、刹那の幸せの形だ。ただ、ニールといつまでも一緒に暮らしていたいという些やかなものだ。言葉にしたのは、イオリアの前だけだ。だが、イオリアは、それを了承して、帝王学を叩き込んでくれた。それなら、さっさとやってしまえ、と、助言もしてくれたのだ。
 目から鱗が落ちるというのは、こういうことだろうな、と、ニールは心底、驚いた。自分が手助けしてやらなければ、と、思っていたのに、刹那は、逆に、ニールの望むものを叶えてやると言えるほどに強くなっていたからだ。大切に育てたつもりだ。これからも、大切にしたいとは思っていた。だが、相手は、それよりも遥か上のことを考えていてくれた。なんだか感動して傍にいる刹那を抱き締めた。
「俺、うざかったか? 」
「意味がわからない。」
「だって、俺は、おまえさんのことを子供みたいにしてただろ? 子供だとばかり思ってた。けど、大きくなったんだな? 」
 今頃、どうして王妃は、こんなこと言うんだろう、と、刹那は笑った。すでに、大人だと身体で証明しているのに、それでも、こんなことを言うのだ。
「あんた、毎晩、俺に何をされていたか理解してなかったのか? 」
「してたけど。」
「俺は、あんたの望むことは、なんだって叶えてやりたい。この国が必要じゃないと言えば、この国すら滅ぼして、あのオアシスで暮らしてもいい。・・・・そのために、妖精王になったんだ。」
 早急すぎると、誰もが即位を止めたのに、刹那は、頑として譲らなかった。まだ若すぎると言ったのに、先代も取り合わなかった。その答えが、ここにある。ニールを自分のものにするために、刹那は早々に、妖精王になったのだ。

 ぐりぐりと押し付けられるように、刹那の肩でニールの頭が左右に振られた。
この国は、自分が生まれ育った場所だ。いとも簡単に、そう言う刹那が怖くなった。三つの大国を簡単に破壊できると言い放つ妖精王なら、こんな小さな国ぐらい壊すのは造作もないことだと実感したからだ。
「イヤだ。」
「何が? 」
「この国は滅ぼさないでくれ。お願いだから。」
「わかった。滅ぼさない。あんたが、ここで暮らしたいなら、それでいい。」
 髪を撫で付ける手は温かい。ふいに、ニールは涙が零れた。それは止まらない。ずっと、この温もりは欲しかったのかもしれない。今までは、与えるだけだった。今は、与えられている。それが、心のどこかを決壊させたらしい。
「・・・刹那・・・嬉しい。」
 ぐすぐすと泣いているニールに、刹那のほうも、びっくりしたが、そのまま顔を見ずに、髪を撫でていた。こんなふうに甘えてもらえるとは思わなくて、とても嬉しかった。ニールは、いつも、与えてくれるだけで与えさせてくれなかった。一方通行の関係が、ここで少し行き来できるようになったと思えた。
「あんたを愛してる。いつか返してくれると嬉しい。」
「・・うん・・・」
 ようやく届いた。刹那も、ほっとしてニールの髪に口付ける。少しずつでいい。少しずつ、ニールが心も繋げてくれたら、刹那には、それ以上の幸せはない。

 ぐすぐすという嗚咽が聞こえなくなって、ニールが耳元に囁いた。すでに、その頃には、日がとっぶりくれて真っ暗になっていたが、灯りはつけていなかった。
「なあ、刹那。おまえは、幸せだと思う形はあるのか? 」
「今更、それを聞くのが、あんただな。・・・・あんたと一緒にいるのが、俺の幸せだ。先代のディランディ家のような形にするなら、引き取る孤児が俺たちの子で、あんたと俺で世話してやれば、似たような形になるんじゃないかと考えていた。」
「・・・そっか・・・」
 刹那が望む幸せの形は、そういうものなのか、と、ニールも頷く。男同士では子供は生まれない。だが、ニールが刹那に望んでいた形に近いものとして考えていてくれたものは、ニールが協力することでできるものだ。それで刹那が幸せだと微笑むのなら、ニールも幸せだと思える。
「部屋に戻ろう。腹が減った。」
「ああ、そうだな。」