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鈍色に暮れる

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黒沼青葉という人物は言葉で表すなら、童顔で可愛らしく、同時に自分の価値というものをよく理解している人間だった。
「先輩、一緒に帰りましょう!」
放課後の教室までやって来て無邪気にそう言われれば、よっぽどのことがない限り大方の人間は断れないことをこの後輩は判ってやっているのだろうかと帝人は思う。
少しばかりわざとらしい言動も彼の愛らしさのせいで不自然に見えない。顔がいい人間は得だな、と感じる瞬間だ。
「青葉君、たまには一人で帰るとか・・・」
「先輩と帰りたいんです」
上目遣いで見上げて来る後輩に押されて後ずさった帝人は杏里に助けを求める様に「そ、園原さんは?」と言って振り向いた。
「私は構いませんよ」
微かに笑う杏里に二の句が継げなくなったらしい帝人は「しょうがないなあ」とあっさり降参の意を示した。青葉はそれにぱちんと手を打って「だから帝人先輩、大好きです!」と嬉しそうに破顔する。
やれやれという顔をした帝人と、遠慮がちに後ろを歩く杏里。それに嬉しそうな青葉が教室を出る。
これで帝人が女性であったなら付き合っているのではないかという認識もあったろうが、残念ながら青葉も帝人も男性である。帝人に過剰に懐いている後輩、という見方で落ち着いていた。ここから恋愛感情云々を引き合いに出すのは非常に勇気がいる。それならいっそ知らぬが仏とクラスメイトは皆三猿になっていた。帝人が青葉の言動を半ばスルーしているのも一因である。
杏里は杏里で大人しく控え目だから青葉に何か言うこともできないだろうし、あの三人は本当に難儀だと見えなくなった背中に溜息を吐いた。
「帝人先輩、今日はどこか寄りますか?」
「特にこれといって思い付かないな。どこか、寄りたいの?」
そういうわけじゃないんですけど、と青葉は笑う。「そうだ、杏里先輩はどうですか?」杏里に顔を向けてにこやかに言うが、杏里もどこかに寄るような気分ではなかったらしくやんわりと否定されていた。
「先輩方って真面目すぎですよね、今時の高校生は、もっと、ぱーっと遊ぶもんですよ?」
「別に『今時の高校生』ってのになろうとは思ってないからいいよ」
苦笑しながら返すと唇を尖らせる。
「あ、私、ここで……」
控え目に頭を下げる杏里に、帝人も青葉も「また明日」と声を揃えて笑う。
「ええ、また明日」
ふわりと笑んで家路を急ぐ杏里を見送って、帝人と青葉はぽつりぽつりと会話を落としながら歩む。
街路樹の緑が目につき始める季節だ。じきに青々とした葉を茂らせることだろう。空は高く、グラデーションのかかったような青色をしていた。
あ、と声をあげた帝人に、はっと青葉は視線をやる。道路沿いの駐車場に白いワゴン車が一台。それに寄りかかっている男。見覚えがあった。
「門田さんに、狩沢さん、遊馬崎さん。お久しぶりです」
気付いたように手を上げる門田らに控え目に帝人は会釈する。ワゴンの中には渡草もいるらしかった。
「おう。竜ヶ峰も今帰りか?」
「はい」
フェンスに寄りかかる門田の後をわっせ、わっせと狩沢と遊馬崎が横切っていく。何かを抱え持っているらしいシルエットに、またポップでも持ってるのかな、と帝人は目を凝らした。
ポップよりも随分立体感があるような気がする。その正体に気がついて帝人はぎょっとした。確かにあれはポップではない。等身大ポップではなかったものの、狩沢と遊馬崎は同じくらいの大きさのフィギュアを二人がかりで抱え持っていた。
うっかり帝人は顔を引き攣らせた。青葉も似た様な表情をしている。
「あ、これっすか?1/1スケール美少女フィギュアっすよー」
「ゆまっちー、お喋りもいいけど先にこれ運んじゃおうよ。汚れついたら大変!」
嬉しそうな顔で開始されるかのようだった遊馬崎によるキャラクター賛歌は狩沢の声によって止められた。そうっすね、と思い直したかのような遊馬崎に二人はほっと胸を撫で下ろす。
暫くの後に狩沢と遊馬崎がひょい、とワゴンの陰から顔を覗かせて久しぶりーとにこやかに手を振った。
「今日は二人なんすね」
手を払いながら聞く遊馬崎に、はい、と素直に答える。
「あれ、そっちは確か……」
うん?とでも言いたげに首を傾げてみせた狩沢に帝人はすぐさまフォローを入れる。確か一度、青葉と門田らは顔を合わせていた筈だった。
「あ、僕の後輩です」
「黒沼青葉といいます」
「うんうんそうだった後輩君ね!」
どうも、と軽く頭を下げる。
にこにこ笑う女性は「で、二人仲よく下校中?」と尋ねた。門田が何とも言えない微妙な表情をして、渡草などは素知らぬ振りをしている。
「はい、先輩とはよくご一緒させてもらってます」
そう、ご一緒なのね、うふふふ、と笑う狩沢はじりじりと帝人と青葉に近づく。獲物を狩る肉食獣のような動きに思わず二人は一歩引く。正直こわい。あまり女性には抱かないはずの感想だ。
狩沢は一人でうんうん頷いたりぶつぶつと何か呟いた後で、
「なるほどボーイズラブね、それはラブラブなのね!」
そう言い放った。
「おい狩沢そこら辺にしとけ」
「何よう、ドタチンはこの滾るパッションがわからないっての?」
で?で?そこんとこどうなのかしらと狩沢はずいっと帝人と青葉に詰め寄った。目がきらきらと輝いている。
「いや、僕らは別にそんな……」「決まってます、僕と先輩はラブラブなんです!」
周囲二メートルほどの範囲が固まったような気がした。青葉と狩沢以外。
「なっ、何それ何それ何それたまんない!詳細kwsk!」
「あ、青葉君!?何言ってるの?」
嬉しそうな悲鳴を上げながらぴょんぴょん飛び跳ねる狩沢と青葉から距離をとろうと僅かに後ずさる帝人に、対照的だなぁ、という感想を抱きながら青葉はわざとらしく帝人に腕を絡ませた。
「先輩、僕のこと本気にしてなかったんですか?毎日あんなに好きだって言ってるのに!」
いつもの可愛らしい後輩然とした態度で、ついでに瞳も潤ませながらぎゅっと抱きつく。上目遣いも忘れない。
これには傍観していた門田らも思わず顔を引き攣らせ、狩沢はますますヒートアップしている。
「生の男子高校生BLキタコレ!しかも後輩年下攻めとかなんて美味しいの!お姉さん応援しちゃう!」
勿論興奮しながらもばっちり写メることも忘れていない。
一方の帝人は青葉が何を言っているのかの理解も追いついていない。ただ周り二人がえらく盛り上がっていて周囲の視線が冷たくて、そのうえ写メまで撮られだしたものだから、
「も、もう無理ーーー!」
そう叫んで鞄を抱えると、青葉を振りほどいて一目散に駆けだした。
「あっ、先輩待ってください!すみません、ここで失礼しますっ」
「おう頑張れ青少年!いつでもこの狩沢お姉さんに相談に来なさいねー!」
ありがとーございまーす!と元気な声が尾を引いて流れていって、後に残ったのはやたら元気そうな狩沢と、ぐったりとした目で二人を見送った門田らだけだった。
「……竜ヶ峰も大変だな」と門田がぽつりと零すのに、狩沢以外の三人は心から同意したのだった。



「先輩、先輩待ってください!」
人混みを走り抜ける帝人の背を追う。
「なんで止まらないんですか!」
「あ、青葉くんが追って来るからでしょ!?」
作品名:鈍色に暮れる 作家名:nini