for myself
あの時、勝手に動き出したハムロボットの動きが精巧で、私は動きに夢中になった。とととっとかわいいしぐさで駆け巡るハムロボットに夢中になっているうち手が触れた。それから静かになってしまった。アスランが男の顔してた。そうだ、初めてキスしたときと同じ顔だ。ギクシャクしながら服を脱がしあうまでに時間はかからなかった。ある冬の日のことだった。不器用ながら案外気持ちよかったのを覚えてるし、思い出しても熱くなる。
そんな雰囲気になっていたんだと思う、アスランとならいつどうなったっていい、と。アスランもそうだったのかな?
「アスラン」
「ん?」
「私とこうしたかったのかなって、ハムの時に、アスランは」
「…」
服を着ればもっと体の線が細かったと思うのに、やっぱりなんだかがっちりしている。骨格が女とは違う。アスランの重いけど心地よい重さ。生きてる重さ。左の耳元に唇があるのがわかる。髪の毛からローズウッドの清潔な匂いがする。ぐっと出ている肩甲骨の辺りを軽く撫でてみる。シーツのすれる音がする。
「…」
「ん?」
「いつかは、こうなるのかな、って思っていた、よ。でも、君がいいって思わないとできないと思った」
「…うん」
「ハムは理由にはしてないつもり、だけど。君の…」
「え?」
「君の裸はちょっと知ってたから、もしかしたら、生き地獄のような感じも自分の中であったのかも知れない、フフ」
私をアスランが見下ろす。お互い笑った。額同士をくっつけた。温かかった。
あの時、私はいつの間にか意思表示してたのだ。二人きりになって心許すことをどこか奥底で決めたのだ。私がアスランのそんな気持ちをわかるように、アスランも私の内側を理解したのだろう。
暗いけど、なんとなく表情がわかる。微笑んでいる。どこかゆったりして、なんだか、父上みたいに笑ってる。
「アスラン」
呼びかけてみる。何か考えてるみたいで、しばらく沈黙があった。
それから、唇を重ねてきた。薄くて温かくて、力強かった。両の手を重ねる。足が絡まる。
「カガリ」
意を決したように私の名前を呼ぶアスランはやはり笑っている。
「…」
「俺は、初めてカガリを抱いたとき、父の気持ちがわかったんだ」
「…」
「…俺がカガリを守りたいとか、大切に、とか、そう思ってるように、父も母を大事で、みんなが大事でああいうことになってしまったんだ、きっと」
「…うん」
アスランの言わんとしていることが手に取るように内側になだれ込んでくる。ああ、今、アスランが生きていてこうやって抱き合えて私は嬉しい。きっとアスランのお父さんは悪になろうとしたわけじゃない。そんな気付きと確信を彼に与えた誰かに私は感謝する。人は最初から悪い人じゃない。平和を知るための基本的な一歩じゃないか。
そして、わかった。私はアスランがもし命を落としたら、平和が来てもそれを平和と思うことができるだろうか?自信は、ない。コーディネーターが死なないなんて、「お前の腕の良さは知ってる」とかそんなんで、頼ってしまってホント思い込みもいいとこだ。
アスラン、揺らぎながら、私はたくさんのことを決めたよ。お前を切り離すことを決めたこともあるし、また戻ることも決めたんだ。私の道を、これからも決めていける。その決めた先がお前と同じだと思うと、私は嬉しい。心の底から嬉しいよ。
「アスラン」
「ん?」
「そういう風に気づける、お前が生きていることが私の平和の証かもしれない」
「…」
「…ってごめん、唐突に」
「…うん」
アスランは豊かに笑って、また壊れ物のように、でも力をこめて抱きはじめた。私はめまいがした。
作品名:for myself 作家名:なつおみはる