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鷹の人3

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大広間といえど、元は防衛の砦として築かれた城だ。さして広くはなく、余人ははいる余地はない。十名も入れば、それだけで満員という程度の広さの部屋の中央に、円形の卓が置かれ、中央には燭台がある。壁に等間隔で並ぶそれには、一つおきに蝋燭が置かれたもので、細い炎が燃えていた。
 部屋の外に待機している兵は、どちらもが、タウロニオに義理があり、彼自身に忠誠を誓った元ベグニオン駐屯兵だった。彼らの家族はデインに既に移していた。人質のような真似だが、彼らが望んだ。
 そして一時はベグニオンの正規軍所属であった彼らは、ベグニオンの諜報部隊のことも、良く、知っていた。
 ベグニオンは、軍隊においても家柄、地位が最優先される、古めかしい風習が未だに根強い国家である。本来ならば重要である諜報員などを、だが、軍の上層部でもあり支配権を持つ元老院議員などは、重要視はしない。彼らにとって諜報員というものは、奴隷同然の存在だった。概してそのような仕事に携わる者は、見下された。所詮は手ごまのうちの一つであり、見目華々しい軍人などとは比べ物にならぬ、という考え方は,恐ろしい事にまだかの国の一部では罷り通っているのだ。
 ゆえに、彼らに、個々に何らかの義を直接その上官に感じる場合はあれど、徹底した忠誠心というものは、あまり見られるものではなかった。
 かの国の信じられぬような実態は、何もそれだけではない。ペレアスの元に届く情報は、必死に国を建て直そうと、血のにじむような努力をしているペレアスにとって驚くような、あまりにも愚かな内情だった。大国の奢りがして、今回の戦、内乱を引き起こしたのであろう。
 ペレアスに付き従う青年も、デイン生まれではない。解放軍時代、ペレアスの人柄に惹かれ、その穏やかな見た目とは裏腹に、密やかに秘められた情熱に心動かされ直接忠誠を誓った。ベグニオン駐屯軍で、情報の収集及び撹乱を担っていた平民だった。
 入室し、ペレアスはぐるりと広くはない部屋を見回す。
「将軍、フリーダの姿が、ないな」
「は。どうやら、敵の手の者を捕えたらしく、…今しばらくのお待ちを」
 タウロニオが進みでた。流石にあの白銀の一揃えは身につけてはいなかったが、鎖帷子はそのままだ。身なりは流石にきっちりとしたものだが、それでも、色濃く戦の臭いが残っている将軍は、声を落とす事なく報告をする。
「やはりここまで入り込んでいるか……元老院のものか?」
「いえ。彼女の口ぶりでは、どうやらそれは神使が放ったもののようで」
「神使、だと…」
 タウロニオの言葉に、一斉に場がざわついた。
 皆、信じられぬ、というように互いに顔を見合わせる。
 サザなどは、あからさまに渋面を作っていた、成る程,彼は、旧知の仲でもあるベグニオンはラグズ奴隷解放軍の首領トパックと密に連絡をとり、常に神使その人の動向を知ろうと彼なりに動いていてくれた。だが、今の今まで、神使及びベグニオン側から、表立った報告は、先日の帝都シエネにおいてクーデターが起きた、ということのみ。その報は迅速ではあったが、神使その人から、直接の接触は、こちらが望んでいるにも関わらず、今の今まで一度たりともなかった。
 かわりに、元老院は頻繁にこちらに間者を送り込んできていた。サザの要請により、本来は国家とは独立している組織でもある、ネヴァザの盗賊ギルドの連中の協力もあり、それらはほぼ捕え、情報を吐かせ、駆逐しているが、完全に防ぐ手立てはない。また、わざと偽の情報を流させるため、泳がせているものなどもある。
「…神使親衛隊か。フリーダはなんだと?」
 神使が独自に諜報機関を活用した試しはない。存在はしているらしいが、それはほぼ宰相セフェランが動かしている。そして、その宰相は長らく不在であった。神使が真に己の意を伝えようとする時、真っ先に使うのは、かの空駆ける白き優雅な天馬駆る乙女たち、神使親衛隊だった。
「何やら、こちらに接触の機会をうかがっているらしいゆえ…試してみると」
「…なるほど、やはり、その道に通じている者ではないということか」
 ペレアスその人との接触が目的であるならば、真っ先に王の居室を狙い定め、接触してくるはずである。だが、ここ数日、そのような気配をペレアス自身も、側近の男も感じた事はなく、報告も皆無だった。急激に動いた事態に、向こうも慌てている。ペレアスはそう思う事で、納得することにした。
「遅れました、申し訳ございません!急ぎ対処すべき事態にあいなっておりましたゆえ」
 女性にしてはいささか低めの声が、扉を開く音と同時に飛び込んでくる。
 暗めの赤毛をきっちりと結い上げた褐色の肌をした女騎士が、彼女にしては珍しく慌てた様子を、その愛らしいーー彼女の高潔なる人柄と武勇を、とてもではないが想像出来ないほどーー顔に浮かべいた。
「フリーダ将軍。今、その話をタウロニオから聞いていた。その首尾は?」
「は。神使サナキはこの状態をもってしても、話し合いを望んでいるようです」
 フリーダは、騎士としても、そして領主としても優秀だった。その若さでマラド領を治め、自らも馬上で槍をふるうだけある。
 彼女の報告は、常に簡潔で、そして明確だった。ランビーガの娘という通り名に、彼女自身が誇りを持っているからに、それは他ならない。父の名を貶めたくはなく、女という事を言い訳にしたくはない。テリウスにおいて、就労の機会から始まり性別による差というものは、殆ど無いに等しい。それはかのベグニオン帝国の始祖であり、三英雄オルティナその人もまた女性であったことも、関係が深かった。
 それでもやはりすべて同等というわけにはいってはいない。それは、ベオクとラグズが互いに絡みに絡んだ歴史を紡ぐ、はるか昔から存在していた違いであり、違ってしかるべきなものであった。
「………何を、今更」
 吐き捨てるような調子で呟いたのは、サザだった。ミカヤが弟を咎めるように目配せするが、サザは憮然と、鼻を鳴らし、そっぽを向いた。
「神使自身に戦う意志はなく、もし言うべき事、伝えるべきことがあれば、かの間者を通して伝えよ…と。書状も、こちらに」
「ありがとう、フリーダ」
 フリーダは一振りの杖を、ペレアスに渡す。一見して、特に変わったところなどは見られない、どこでも流通している、教会が秘蹟を授けた聖杖だ。
 だが、手に持つと、いささか軽い。力なき僧侶たちが扱うから、柄の部分に金属などは使われないが、それにしても軽い。
 その事に気がついたペレアスは受け取るや否や、本来奇蹟の間力を秘めるべき輝ける石に触れてみる。狙い違わず、あっさりとそれは外れた。宝玉を外し、中を確かめれば、紙片が筒状に、その空洞になった柄の中に入っている。
 取り出し広げてみると、『女神アスタルテの名において』の一文で始まる書式文言は確かに、ベグニオン皇帝神使サナキにしか使えないものだ。例え元老院とあっても、この文言を使う事は、禁じられている。
 小さいながらも、鑞で厳重に封をされている。
 封をあけ、書面の確認をした。そこには、フリーダが報告した旨と同様の内容が、乱雑な文字で記されていた。
作品名:鷹の人3 作家名:ひの