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鷹の人5

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陣営内は、冷え冷えとした月が頭上を通過してゆく刻限になってもなお、静かだとは言えなかった。
 その月も、今や雲の中。風が時折、雪を運んでくる。遠くには風のうなり声すら聞こえる。これでは、明日の決戦は吹雪の中、ということになる。冬のデインは二度目だが、はやりあまり心地よいものではない。強靭な鳥翼の翼は、この程度の風雪には負けぬが、この底冷えの寒さだけは本当に堪える。何故、自分たちの祖先が祖国たる地を南海の島に求めたのか、今ならば良くわかる。
 愉快ではない思考を、ウルキは中断せざるを得なかった。
 血に飢えた獣のうなり声。時折混じる咆哮。あたり一帯に漂う殺気。意識していなければとっさに化身してしまいそうになる。これでも仮眠を取れるアイクは、成る程大物に違いあるまい。

 何故だかはわからないが、デイン国境を突破して以来、戦闘後の疲労が倍増しているような気がする。身体などは常にだるく、休息をとっても回復しない。そして、化身している最中に、堪え難い衝動に襲われる事が度々あった。捕えた敵をより残虐に、より凄惨に、殺す。それは、過激な殺し方をすることで相手の戦意を失わせる、などという、理性的な理由からなどではないことは、ウルキ本人がよくわかっていた。
 ただ、殺したいのだ。
 ただ、喰らいたいのだ。
 ウルキは、フェニキスの中でも、その性根が穏やかで、どちらかといえば戦を厭い、気配りに細やかな、思慮深いと言われる種族の出だ。ついでにいえば相棒ヤナフは翼力にすぐれ、何れの種族よりも速く、見事な飛行をする。彼の千里眼は彼特有の能力だが、彼の種族の特徴として、強靭な翼力の他に、やはり視力に優れるという傾向もある。
 そのような種族の出でもあるウルキは、ゆえに戦いの中で我を失うまで戦い尽くすような衝動に駆られた事は、百余年生きてきて未だにない。故郷を焼かれたという報を聞いた直後の戦いでもそうだった。堪え難い怒りを覚えたが、それでも、耐えた。決して獣に落ちてはならぬのだと、強い信念があればこそだった。
「感情に殺されるでない。どのような時も己をわきまえ、王を王として敬い、だが、自分を見失う事なかれ」ウルキが新王ティバーンの側近になる、という話を聞いた時、ウルキの母親が静かにそう告げた。ウルキは未だにその母の言葉を信条とし、努めて戦の折は己を見失わぬよう、自制しつづけていた。
 だからこそ、思うのだ。
 この状態は、何かがおかしい。確かにデインという国は反ラグズ国家ではあったが、デインという国に、例えばラグズを呪うような魔術的なものが存在している、という事はない。仮にそのような罠が仕掛けられていたとするならば、優れた魔道の遣い手でもあるグレイル傭兵団の参謀セネリオが勘付かないわけがない。

 漠然と、だが、確実に、自分達は拒まれているような気がする。この土地そのものに、だ。
 お陰で、デイン国内に入ってからというもの、持ち前の順風耳すら、生来の半分の威力も発揮出来てはいなかった。それは、相棒ヤナフにしても同様で、それどころか、フェニキス兵全般が何らかの異常を訴えて来ている。
 ノクスに近づくにつれ、肌や羽毛を刺す不愉快な空気がいよいよ増していた。

 そうでなくとも、このとどまる事のないガリア兵の咆哮を夜通し聞かされれば、ベオクの兵など、おそらく生きた心地すらしていなだろう。その旨を懸念したのか、ラグズ勢とベオク勢の陣営は、一部例外を除き、きっちりと分たれている。このような、お互い疑心暗鬼の状態で、だが、お互いに協力し戦うなど、伝説の三英雄でもなければ成せぬ難事ではないか。そもそも彼らには大義があり、共通の倒してしかるべきな「敵」がいた。だが自分たちはどうだ。
 その事を思うと、断続的な不快感に加え、胃の腑のあたりがとたんに重たく感じられる。
 仮眠はそれでも無理矢理とっていた。戦い慣れしていない新兵ではないし、眠ろうと思えば眠る事は出来る。
 だがこの異様な緊張感につつまていては、仮眠がせいぜいだろうか。さらには、不自然な音が四方八方から届く。これでは、仮にデインの間者が入り込もうと、今のウルキの聴力では関知出来ない。雑音が多すぎるのだ。
 ともかくガリア兵の猛りぶりは、彼らに比べ極めて冷静なフェニキス人からすれば、「異様」ともいえる光景だった。

 フェニキス陣地はノクス城を取り囲む森の手前に位置している。森の手前の、こんもりと盛り上がった丘の上、ひときわ高い一本杉の梢付近に、二人のフェニキスの戦士の姿はあった。
 そこから望むノクス城は、あかあかと篝火が焚かれ不気味な静寂を保ち、あわただしさなど微塵も感じさせてはいない。これが、戦況を押されまさに背水の陣にある国の軍隊の様相なのか、と疑念を抱かせる程、かの瓦解しかけた砦はどっしりと構えているように見える。むしろ焦っているのはこちら側のようにすら思える。
「ったく、こうもガァガァ五月蝿くっちゃ、眠れやしねえ。こちとら、ろくすっぽ見えない目で偵察までして、疲れきってるってのによ」
「………ああ」
 ヤナフは面白くもなさそうに、鼻をならした。翼を動かすのも億劫だ、と言わんばかりだ。
 ノクスの森は、セリノスの森のようなうっそりと繁るそれほどではないにせよ、深い森だった。さらには、ゆるく砦に向かって、勾配がある。
 デイン軍は地の利を生かした、ゆるく長く続く傾斜の上に陣営を置いていた。元は、ノクスの砦があったそこである。半壊しているとはいえ、風雪を防げる場所がある、というだけでもこの天候では違うだろう。
 地形を無視出来る飛行兵の数は、こちら側が圧倒していた。デインの誉れ高き黒竜騎兵団は、四年前の戦において、その騎手はほぼ壊滅していたはずだ。だが、ウルキはそれを圧倒的優位な材料であるとは、考えなかった。何故ならば、すぐれた機動力たるその翼を妨害する針葉樹は、所狭しと行く手を阻んでいるからである。デイン軍の現在の主力はほとんどが歩兵であったが、むしろこの地形ではそれが有利に働くだろう。地の利は当然だが彼らにあり、さてどのような罠が仕掛けられているのか、検討もつかない。森の中をちらちらと動く影はあるのだが、かといって手出しも出来なかった。最高司令官でもある神使皇帝サナキが、戦闘以外での手出しは無用、と厳命している。
 実は、自分たちはデイン軍に都合の良い戦場に誘導されたのではないのか、という懸念も覚えなくもなく、その事に関してはどうやらセネリオも認識しているようで、それは彼の態度がより厳しくなったことからも判断出来る。
 昨日の戦いでの被害も、結果的には城門を破ったのはこちら側だったが、決して軽視出来るものではなかった。どうもあちら側には、容赦なく手段を選ばぬ策士がいるようだ。
 加えてこの積雪だ。いかに強靭なガリア兵の四肢といえど、彼らは雪には慣れていない。ノクス一帯は、豪雪地帯でもある、行軍の行く手を阻むものには、事欠かなかった。
作品名:鷹の人5 作家名:ひの