鷹の人5
ペレアスが卓上に地図を広げ、タウロニオの言葉を受け、側近の青年が書き込みをいれてゆく。本陣はノクス上の脇、丁度丘陵地の頂の台地に位置していた。周りはうっそうとした針葉樹に囲まれている。
物見の報告より彼が書き込んだ情報も、詳細に記されていた。ニケは無意識に、感嘆の息を吐いた。
これならば、改めて自分が情報をもたらすまでもないかもしれない。それは皇帝軍を裏切る事になるが、それはデイン側に与した事で決定的だ。大義名分など、ベグニオンという大国のまき散らす因習と無関係なニケには、どうでもよい。それよりも彼女自身が興味を持ち、血を沸かせ肉を踊らせるような状況と、伴侶ラフィエルの望みこそ、彼女にとっては是である。
そしてニケにとって、デイン軍は、彼女の心を満たす要素に溢れていた。
「女王……全てを、話すおつもりなのですね」
「それがミカヤを助ける事になろう。それは、お前の望みでもあるのではないか、ラフィエル」
夫婦の間に交わさされたひそやかな囁きは、一旦はその場に収められた。
「本日早暁。第五竜騎兵隊で、皇帝軍本営を襲います」
第五竜騎兵隊。タウロニオの言葉に息を呑んだのは、フリーダとノイス、そしてミカヤだった。