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鷹の人6

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その名をデイン王が口にする、即ちそれは徹底した手段を用いる、という事に他ならない。
 元来第五竜騎兵隊とは、デイン王国においては「特殊部隊」という意味と同義に扱われている。先のクリミア戦役において、クリミアの首都メリオルを電光石火で襲った部隊は、まさにその「特殊部隊」第五竜騎兵隊だった。
 だが、先の戦役でほぼ瓦解した軍団の例に漏れず、第五竜騎兵隊もまた、その大多数を失っていた。現在の第五竜騎兵隊を構成するのは、元駐屯軍兵ら実戦経験を豊富にもつ、他国の人間だ。僅かに生き延びた数名が、彼らにその理念を叩き込んだ。元より、帝国軍人である彼らは、ベグニオン人らしからぬ適応力でもって、今や間違いなくデイン人でありデイン軍だった。
 王家直属の「草」が、部隊単位ではなく、ほとんどが個人もしくは二、三人の少数での隠密行動を常とするがゆえに「軍団」の名を冠さない存在ならば、彼らはあくまで部隊単位で、更に表での仕事を常とした。もっとも、その姿を偽装し撹乱を得意とする、という意味では似たような存在でもある。
 つまり、第五竜騎兵隊と「草」とは、共にデインにとっては最後の切り札とも言える存在だったのだ。

「その部隊はさぞ優れた部隊なのであろうな」
 ニケの隻眼は、細められている。先ほどから何か言いたげといわんばかりに、時折ペレアスに視線を送ってきていた。きっかけを待っていたようにも見える。
 なるほど、彼女は先ほどまでは敵陣の直中にいた。情報を、携えて来ていてもおかしくはない。ある程度の敵の配置、及び陣営内の様子などは既に彼女とミカヤの間で言葉が交わされており、その内容は既にペレアスも知っていた。
 彼女のもたらした情報の中で、ペレアスが把握していなかった事と言えば、皇帝軍内の,首脳陣の仔細な様子だろう。おおよその布陣だとか、そういったものは先ほどの戦いの中で敵に紛れ潜ませておいた間者が持ち帰った情報で,ある程度は把握している。
 皇帝軍内において目下問題になりつつあるのはやはり兵糧と物資であり、次いで種族間の格差であるという。ベグニオン正規兵とそれ以外、そしてラグズ兵。いかにグレイル傭兵団のアイクが将であるとはいえ、皆が皆その存在を認めている訳ではない。神使サナキの絶対性は、やはり、それほどではない。利害の一致と共通の敵を見ればこそ協力はしていても、その思惑が合致するわけではない。
 だが、更に、何かあるというのだろうか。懸念などは今更なのだが、ペレアスはニケの意図を掴みきっている、とは断言出来ない。
 その行動の裏にあるものを見てしまう、考えるようになってしまった事を後悔もしない。おそらく、それがあの「忠臣」イズカの残した唯一の財産だと言うのであれば。疑う事などは詮無し、と自己に結論を見た上で、ペレアスはニケに向かい、一度頷いて発言を促した。
「皇帝軍本営は、正規軍で固められてるとはいえ、私の見た限り、それほどの者は実のところいないな。その上神使親衛隊もこの度の戦には参戦するらしいぞ。つまりは、神使の周りには、そなたが懸念するような者はいないということだ。確かに正規軍だ、侮れる相手ではないが…今のベグニオン正規軍は、ある意味では緩みきっている。この期に及んで楽観するなど、戦いを忘れた民でもあるまいに」
「和睦の使者を送った以上、我らが逆い、さらに我らが本陣を急襲する可能性などはないなどとは、夢にも思ってはいないということでしょう。他国を属国扱いしている帝国らしい」
 ペレアスの静かな声色には、感情的なものがやはり含まれてはいない。構えて落ち着いている。
 だが、逆にその静寂が何やらおそろしく、サザは思わず口を挟んでいた。
「にしても、なめられたもんだな。本陣にたいした守りを裂かない、だなんて。帝国らしい奢り、か。ペレアス王、あんたの徹底した暗愚ぶりも、あながち悪くはなかったってことになる」
 サザの皮肉めいた口ぶりは今回の一連の発言に限らず、いつものことだが、言外に彼なりに王を王として認めている節が、ところどころに垣間見える。そのことで、ゆえにミカヤも今回は諌めるような真似は控えた。ノイスが口髭の下で、小さく笑みをつくっていることなど、サザは気がついてはいない。
「女王、最初の質問に答えましょう。第五竜騎兵隊とは、工兵と竜騎兵からなる特殊部隊です。彼らを行使する権限を持つのは王家の血筋に連なるもののみ。名代を使う事は、許されません。彼らが動きはつまり、私の意志ということになります」
「そなたがそのように断言するのであらば、よい。自分たちを率いていた圧倒的な将の不在と、主である神使の焦りは、あの見事な白銀鎧の軍団を、ただの烏合の衆にするに充分だ。まして、きやつらは常に味方にも懸念を抱かねばならぬとあらば」
「将軍ゼルギウスと共に神使は即座に帰国すべきでした。そのような機会は幾度となく、あったはずです。我らが黙ってそれを見逃す理由も、ありませんが」
「神使のみを狙うのなら、むしろあのゼルギウスとかいう男の不在は願ってもない、な」
 ニケの獰猛な笑みに、ペレアスはこちらは曖昧な笑みをのみ返した。
「女王、ひとつ、伺いたいのですが」
「何だ。私に答えられる範囲でならば、全てをそなたに話そう」
「有り難うございます。神使サナキが居場所は把握しておりますが、彼女の周囲に配備されている軍勢は、ベグニオン中央軍、第二騎兵隊で間違いはないでしょうか」
「第二、とは、白備えの格好ばかりは物々しい、偉そうな騎馬軍団のことか?我らを見る目が殊更不愉快だったから、記憶しているぞ」
「はい、彼らの白銀の鎧は、彼らが財力を誇示するためのもの。ゼルギウス将軍配下でも屈指の力を誇る第一騎兵隊とは逆に、権威ばかりが先走りしている、もともとは元老院付きの軍隊です。ラグズ連合と事を構えるという事でゼルギウス将軍配下に収まる事を納得しているのでしょうが、その多くは元老院派、それも、ほぼ名ばかりの軍隊。功名を得たいという思いはあれど、己が手足を煩わせる事を厭う…典型的な帝国貴族から構成されている、権威のみの軍団です」
 正規軍の仔細な情報は、やはり元駐屯兵、そして「草」がもたらしたものだった。また、実は近頃でも「半獣」と行軍を共にすることに嫌気がさした下級軍人が逃亡、デイン側に情報を材料に身柄を保護してくれと願い出てくる事も少なくはなかった。当然、そういった連中はすぐさま軍隊には組込むわけにはいかなかったが、成る程もたらす情報は「草」のそれと比較してみても違いはない。
「は、それはよいな。ならばそなたの言う策は、どれほど連中の胆を抜くであろうな!」
 ニケの嘲笑めいた言葉を受ける王の発言は、タウロニオと側近の男を除いた者の想像を絶するものだった。
「魔道の扱いに優れたる者三名,及び竜騎兵五名。それらにより構成される奇襲部隊で、皇帝の天幕付近を上空から攻撃。目的は殺傷や身柄確保ではなく、脅しです」
 真っ先に懸念の表情を見せたのは、やはり自身も魔道を扱うミカヤだった。
 通常、魔道とは具現化した物を扱うわけではなく、世界を構成している精霊の力を引き出す事で、効力を発揮する。
作品名:鷹の人6 作家名:ひの