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鷹の人6

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 その手助けをするのが、特殊な紙とインク、製法で綴られる魔道書であり、いかな手練とはいえ魔道書なしで魔道を使う事は無謀だといわれている。そして、半端な状態で発動しようものならば、使用者もしくは周囲の者を巻き込んだ惨事を引き起こす可能性が非常に高い。
 つまり、魔道を発動する際の集中を妨害されるということは、それだけの危険を伴う、という事になるのだった。
「危険性は彼らも十分に承知している。その上で、自ら言い出してきたことだ。そして目的は神使を殺す事ではなく、脅すこと。いかに神使であり傲慢な態度をとっていようと、あれはまだ幼子。己を常に補佐する宰相と親衛隊長の不在、そのような状態で目の前で混乱が起きて、それでもなお肚を据えていられるだろうか」
 誰も答えられる者などはいない。そもそも、騎竜にまたがり魔道を放つ、など、一体どこの誰が考えるのだろうか。まして、ノクス周辺はこうして軍議を開いている最中にも、吹雪に見舞われている。特別天候に詳しくなくとも、分厚い雪雲とノクスの位置する場所を考えれば、吹雪が止む可能性などは考えないだろう。命を賭していなければ、出来ない無茶な作戦だった。確実性など、ほとんどない。
 それでも、なるほど、成功すれば効果は絶大だろう。
「まったく、そなたの頭の中には、容赦という言葉がないな。もっともそれを奪ったのが、かの神使の傲慢さであれば、致し方ないともいえるか…」
「それを望んだのも、神使です。他国王を傀儡となそうとしたばかりでなく、領土を犯し、荒し、それでもなお己の正義を盲信出来るとするのなら…いかほどに神使とは、世界の真理を司るものでありましょうか」
「女神その存在に等しい、連なる、唯一のかの御声を聞く事が出来るがゆえの、その権威にそなたは逆らうということになるぞ」
 言葉とは裏腹に、ニケの黄金の瞳はきらきらと輝いている。
「ですが女神アスタルテそのものではありません。そのような権威は、かの大国が己の強固さを頑に信じるための方便でしょう。現実を見れば、四年前は要請がなければクリミアを救済することもなく、また、デインはほぼ属国のような扱いのみならず、その支配の実態を把握しようとはせなんだ、そのような帝国皇帝にいかような権威がありましょうか」
 ペレアスの帝国批判は、そのままデインのみならず、クリミアの情報通の間では当たり前のように囁かれている批判だった。口がさないものなど、公然と皇帝の無能を訴え、かような傀儡が絶対的な権威を持つ事に、危機感を覚えている。それは、いかに宰相セフェランが辣腕を振るっても、決して消せる火種などではない。ペレアスもまた、そのような世情に知識を深めれば深める程、かの国の皇帝の行動に、疑問を覚えこそすれ、信頼などはおけなかったし、また神使であるという「神秘性」などは、帝国とは完全に異なる宗教体系でアスタルテを崇めているデインではさほどのものではない。
「当然だ。あいつらが、自分で蒔いた種だ。せいぜい、後悔すればいい」
 呟くように言葉を続けたサザにが、一斉の注視を受け、慌ててそっぽを向く。
 ミカヤはそんな弟の様子を、わずかな微笑みで見守る心持ちであった。
「そうなれば、おそらく皇帝軍側としても戦いに集中などは出来ないでしょう。なにせ、皇帝神使は、絶対な存在であればこそ」
 神使とは絶対な存在であるはずであった。
 にも関わらず、ニケの情報や間者の情報によれば、神使を護るのは親衛隊長その人や、副官ではないのだという。
 サザの言う通り、こちら側を舐めきっているとしか思えない陣構えだ。
 さらに、神使を残し単身帝都に乗り込んだというゼルギウス。かの将軍の動きも、何やら不気味である。宰相の救出のみが目的であれば、何も彼が動かずともよかったのではないだろうか。それこそサザが旧知の仲だという、ラグズ奴隷解放軍など、神使や宰相が掲げたるラグズ復権に実に都合が良い存在ではないのか。失敗したとしても、宰相らに政治的な痛手もない。
 仮に、セルギウスが皇帝軍にそのままいたのならば、この作戦はおそらく成功はしなかっただろう。どころか、おそらくこれほど簡単に事は運ばなかったに違いない。彼のベグニオン兵たちの間での人気は、絶大だった。デインにおけるタウロニオのそれと同等か或いは、とペレアスは見ている。それほどの男が、単身帝都に向かい宰相を救出する思惑とは何なのか。
 そして宰相セフェラン。何故彼は、神使を迎える為の軍を編成しないのか。何故、帝都シエネを動かない。
 ベグニオン帝国という巨大な国が一枚岩ではない、とは思ってはいたが、ここまで手の施しようがないほど思惑に一致を見ないとは、とは流石にペレアスも考えてはいなかった。
 おそらくベグニオンは長くはない。その前にデインという国が滅びるのかもしれないという可能性は、考えなかった。

「基本的に、我らから攻勢に出る事はいたしません。このノクスの森の地形は、地図にあります通り、このように、砦を頂に、ゆるやかな傾斜をつくる丘陵になっております。飛行兵は、吹雪と針葉樹に阻まれますれば、思うように行動は出来ぬでしょう。地上の部隊は、重ねて坂道と積雪にまず行く手を阻まれます」
「雪中行軍に慣れない彼らは、おそらく既に疲弊している。加えて、物資の不足。何よりも地の利は我らにある。そして奇襲が成功すれば、ガリア・フェニキス両軍は兎も角、神使親衛隊やグレイル傭兵団の何れかは、神使救出の為に本陣に帰還せざるをえない」
 ただし、そこで神使救出の為にグレイル傭兵団が動かない可能性もあった。特に、グレイル傭兵団のアイクは戦いそのものを楽しむ風があると聞く。何故、そのような男があれほどの人心を集められているのかは判らないが、兎も角そうなった場合に際した作戦もタウロニオの脳裏にはあった。
「だがデイン王よ。グレイル傭兵団が、もし、だ。神使救出を選ばなかった場合、どうなる」
「王が今仰られた通りに動かなかった場合、早急に戦を終わらせるべく動くでしょう。その為の本陣付近及び林に潜ませた弩兵隊と長弓部隊であり、魔道部隊です」
 ニケの疑念にはタウロニオが答えた。
「私が参戦する意図も、そこに含まれているのです、ハタリの女王」
「……ほう。確かに、連中はそなたの事を一度も話題に上らせた事など、少なくとも私が行動を共にしていた時はなかった。それも、罠か」
「そしてクルトナーガ王子がおられます、女王、あなたも」
 穏やかに、ペレアスは言ってのける。微笑んでいるように、見えなくもない。先ほどの告白の様子が、まるで嘘のようだった。
「そういうことか。ならば、良い。私も存分に戦おうぞ」
 ニケは愉し気に、クルトナーガは意を決したように、それぞれ頷いた。
「ですが、女王とラフィエル王子には別の役割も担って頂きます」
「別の?何だ。敵大将の喉元に食らいつく役割か?それとも、あの鷹王を地上に引きずり降ろすのか?」
「いいえ。誓約書が手に戻り次第、ラフィエル王子には使者として、クリミア女王の元へ赴いて欲しいのです」
「……エリンシア殿に?」
作品名:鷹の人6 作家名:ひの