青春その後
「イトコ・・・私がいなくなったら寂しい?」
・・・・・・・・・・・・・・・。
おっやーーー??これまた最近2回くらい聞いたような質問じゃないか?
なんだ?デジャブがひどいな?ついに宇宙人に頭を弄られたのか?
「イトコ、聞いてる?」
「あ、ああ。き、聞いてるよ。」
「ねぇ、寂しい?」
デジャブを気にしても仕方ないな。ちょっとまじめに考えてみよう。
うーん・・・寂しいか? ねぇ。
初めて藤和家に来た時のこいつは確か、全力でスマキン電波女だったなぁ・・・。
お陰で、同級生の目線も気になったし、最終的には海にダイブしなきゃならなくなった
訳だ。骨折もしたっけな。
布団が取れて電波がなくなってからも、めんどう事が多かったよなー。
バイトの面接について行ったり、田村さん家で働くようになってからはたまに送り迎えも
したっけか。
んで、いつまで経っても自転車の荷台じゃなくてカゴに乗ろうとするな。もう慣れたけど。
自分から誘っておいてなんだが、文化祭に来た時はびっくりしたね。
俺の青春ポイントも全部上げちゃったし。
ただ、そのお陰で今のエリオがある訳だ。普通とは言えないまでも、人間エリオが。
なんだ、めんどう事ばっかりじゃん。
こいつと離れて清々する事の方が多そうだな。
寂しいとか思う訳もない。こいつは手間がかかるだけなんだ。
こいつは・・・・・・
??
何だこれ?
俺、なんで泣いてるんだ?
エリオの方を見ると、まだ望遠鏡を覗きこんでいる。
こいつには迷惑ばっかり掛けられて、大変で、怪我したりもしたんだ。
寂しわけないじゃないか。
でも、もう一緒には住めないのか。
俺に我儘を言う事もなくなるかもしれない。
スマキンになって拗ねる事もなくなるかもしれない。
俺の自転車のカゴに乗って来る事も、もうないかもしれない。
もう・・・・・
そこまで考えたところで、俺は考えるのを止めた。
体を動かしていた。
エリオに駆け寄り、後ろから抱き締めていた。
「・・・・・!?!?!?!?!?!????」
エリオはあたふたしている。
今なにが起こっているのか分からないっと言ったようにキョロキョロしている。
ふっと俺の方を見た。エリオの顔は真っ赤だった。
水色の髪、白い肌に相まって赤がすごく強調されているようだった。
「エリオ。俺はお前なんかいなくても寂しくない。」
「えっ?」
驚きと困惑が入り混じったような声でエリオが答える。
赤かった顔は、その一言と共に一瞬で白へと戻っていった。
「寂しい訳がない。お前には迷惑いっぱい掛けられたからな。ホント、大変だったよ。」
「イトコ・・・」
眉毛を寄せ、歯を食いしばりながら望遠鏡の方へ顔を戻す。あ、ちょっと言い過ぎたかも。
「でもな・・・いつも一緒に居られなくなるのは嫌だ。」
「え?」
「確かに迷惑で、めんどくさくて、手間が掛かって大変だよ。お前の相手をしてるのは。
でもな・・・」
多分、この先を言ってしまえば後戻りは出来ないだろう。なぜかそんな気がする。
わずか18にしてこの先の人生を決める選択を俺はしている。
だけど、迷いはなかった。ってか、エリオを抱きしめた時点でアウトだったかもね。
「それがなくなったら。今の俺は空っぽになりそうだ。」
それだけ言い終わると俺は目を瞑り、エリオを抱きしめ続けた。
エリオはしばらく動かない。
しばらくして、小刻みに肩が震えだした。
もしかして寒いのかと思い、手を外し布団を取りに行こうとしたところでエリオに止められた。
振り返ってエリオを見ると、泣いている。
ただでさえ潤んでいるような水色の瞳から大粒の涙が唐突なくあふれてきて、透き通るような白い頬には赤みがさし、涙と対照的な色合いになっていて美しい。
前にも見たそんなエリオの表情と一つ違っている点は、エリオはとても笑っている。
不釣り合いなはずの大粒の涙と笑顔が同居している表情はとても自然で、地球人の表情そのものだ。
「イトコ・・・ありがとう、うれしい。」
「あ、うん・・・」
改めて言われると照れるなぁ。
「私もイトコとずっと一緒に居たい。離れたくない。・・・ホントは、こうゆう事言うのお母さんに止められてた。イトコが行きにくくなるからって。」
そこに女々さんの配慮があった事に驚いた。腐っても妖怪でも40の大人なんだな・・・
「でもね、ダメだった。ずっと我慢してたけど泣いちゃった。」
「エリオ・・・」
「だからね、今イトコが言ってくれた事、とてもうれしかった。一緒にいれなくなっても、イトコが私の事嫌いじゃないってわかっただけでもうれしい。」
エリオはずっと泣いていた。
ここでいい男なら『ずっと一緒にいよう』とか言えちゃうんだろうけど、現実的な思考
が先に頭を過ぎる一般人の俺はなにも言えなかった。
さっき人生を決める選択がどーのこーの言ってたのはなんだったのかと思うな。
「エリオ・・・俺、ちゃんと夏休みとかここに帰って来るから。そしたら、リューシさんや前川さんとまた遊ぼう。バーベキューとか、また海行ったりとか。もちろん、天体観測も。また、一緒に木星見よう。」
これが俺の精一杯の言葉だった。これ以上の事は言えない。もう住む家も決まっているし、大体大学生の同棲なんて親が認める訳がない。従妹だし。
そんな妥協と偽善と自分勝手に満ちた俺の言葉に、エリオは全力の笑顔で答えてくれた。
俺を信じきったような幼い女の子のような笑顔で
「うん。ありがとうマコト」
で、だ。
なぜそこから俺とエリオの同居になったのかと言えば、すべてはあの40歳妖怪の仕業である。
どこからどー見ていたのか知らんが、あの縁側での俺とエリオのやり取りをすべて見ていたようなのだ。死ぬ程恥ずかしい事に。
で、突然登場した女々さんは一言こう言いやがった。
「私に、まっかせなさーーーーーーーい!!」
そこからの女々さんは脅威的な速さで物事を進めて行った。
俺とエリオを連れて俺の両親の元へ挨拶へ行き、同居を認めさし(ただしこれには丹羽家は一切援助しないっと言う条件が付いている。)決まっていた部屋も半ば強引に契約を破棄し、新たに広い二人用の部屋を契約していた。
これらの違約金やら新しい部屋の家賃やらは、密かに女々さんが貯めていたエリオ名義の通帳から出していた。
ちょっとびっくりするくらいの金額が入っているこの通帳を、卒業するまでの生活費にしろと手渡され、少し戸惑った。
なぜこんなに協力的なのかと女々さんに聞いたとところ、
「エリたんが本気で願った事ですもの。私は、これくらいしかしてあげれないから。」
っと、まじめな大人ぶった返事が返ってきた。
エリオは女々さんと別れる際、かなり泣きそうになっていたが、なにやら女々さんにひそひそと言われた後は涙も引っ込み気丈に振舞っていた。
まあ、女々さんが見えなくなった後に俺にくっついて泣いてたけどな。
そんな訳で、冒頭にも話した通り、卒業式のあの日を経て、俺はひいおじいちゃんルートを選んだ訳だ。
後悔はないか?っと聞かれたらそれはよくわからない。
若い男が勢いに任せて選んだ選択だ。それが正しいか間違ってるかも分からない。
ただ、俺はあの日選んだ。