青春その後
時計を見たら式まで後1時間。お、そろそろ出なきゃいかんね。
卒業式の日というのは、青春ポイントにおいてボーナスステージとなる日。
そして、三年間(俺は転校生だから約二年だが)友情なり愛情なりを育てた仲間との別れの日
でもある。
そりゃもういろいろ期待もするさ。朝からちょっとドギマギもしている。
が・・・卒業式自体は別。
非常に暇。ってかつまらん。長々と校長の話があったかと思えば電報やら祝電やら・・・
その間立たされっぱなし。こうゆうのは、小学校の時から変わらないんだな。
日本の卒業式は、もっとフランクになった方がいいと思うんだけどなぁ・・・
式の間、リュウシさんとはよく目が合った。目が合う度に『にっぱ』っとプニプニ笑顔を
全開にしてくれるので、目の保養と精神的安らぎの為に結構頻繁に見ていたのでそりゃ目
が合う回数も多い。
前川さんはハラハラする。いつ倒れるのか心配でならない。前川さん自身、あまり力を入
れると『うあー』となるのは分かっているみたいなのでとにかく脱力。
だらーんとしている。うん、倒れなきゃいいや。
エリオと女々さんは遥か後方の来客席なので、確認も困難・・・な、はずなのだが。
さすがエリオ。オーラが違うな。一発で居る場所がわかった。だって粒子が舞ってるんだ
もの。
俺の居る位置から大体後方10メートルくらいかな? 普通、これだけ離れれば一個人を
確認するなどほぼ不可能だろう。
だが、それをいとも容易く可能にするのだ。藤和エリオ、恐るべし。
女々さんは横にいるだろうが、存在がわからないので騒いでる訳ではないみたいだ。
よしよし、この調子で存在を薄くしてくれ。
そんな感じで式も終わり、高校生全教育課程を修了した。
すぐに帰宅となったので俺は帰る事にした。青春男にはあるまじき行為だが、リュウシさ
んは引っ越しの準備がまだ少しあるので帰り、前川さんはこんな日でも店に出るのだと言
っていた。
その二人が居ない状態でクラスの打ち上げってのもなんだか乗り気がしないし、エリオと
女々さんが下足場で待っていたので一緒に帰るという選択に。
校門で少し振り返った。いくらケジメを付けたとは言え、やはり少し未練は残るかな。
「まこくん、卒業おめでとう。」
後ろから声を掛けられた。そこには柔和な笑みを浮かべた女々さんが・・・ちょっと待て、
なぜここで叔母なんだ? しかも、これは大人モードだ。
大人状態の女々さんには突っ込みにくいんだよなぁ。
「あ、ありがとうございます。」
すっかり辛勝に返事してしまった。ただ、いつもと違うのは女々さんはこれ以上なにも言
わなかった。
に、似合わないぞ叔母!!
「じゃ、私は今からちょっと仕事に行かなきゃいけないんだよね。遅くなるけど、ご飯は待っててね。」
わかりました。っと返事をするとすぐに女々さんは仕事に向かった。いや、これホントに
女々さんか? タヌキが化けてんじゃねーか? いくらなんでも違い過ぎるだろ!!
これがあれかな? 3年に一回のシリアス期なのかな?
隣にいるエリオは特に気にした様子もない。
エリオが気にしてないなら、別にいいか。病気ではないようだし。
「じゃ、帰るか。」
「ん」
自転車は一台しかないので、エリオは迷うことなくカゴにすっぽり。
うん、これも慣れた。
エリオをカゴに乗せながら家路につく。この道も、カゴのエリオも、今日が最後。
そう思うと、らしくもなく涙腺が緩む。
藤和家へ到着。
エリオを玄関に降ろし、倉庫に自転車を止めに行くところでいつもはそこにない物が視界
に入った。
自転車をしまい込んで、玄関で俺を待っていたらしいエリオに問いかける。
「なあ、あれあそこに置いといていいのか?」
「ん。今夜イトコと星見るからいい。」
あーなるほど。とりあえず俺の予定は無視だったわけか。
まあいいか。特に予定もないことだ。恐らく最後であろうエリオとの天体観測に付き合う
としよう。
冬(春前)の天体観測は初めてだな。ほとんど夏限定のイベントかと思ってたんだけど。
結局はエリオのやる気次第って事なのかな。
現在19時くらい。外はもう真っ暗で、星を見るには十分な時間になった。
「イトコー」
「はいはい、今行くよ。」
エリオに呼ばれ庭に出ると、そこには楽しそうに望遠鏡に夢中になっている水色の少女が
居た。分かっていても、この粒子はずるいよな。
「ほら、風邪引くぞ。お前が風邪引いたら俺が女々さんにぶち殺される。」
「ん。ありがとう、イトコ」
春先とは言え、夜はまだ寒い。
「ちょっと待ってて。すぐ調整するから。」
「はいよ。」
短く返事をし、肉眼で空を見上げて待つ。
そーいえば、じっくり星を見上げる事ってあんまりなかったな。
星中と月を見上げた事ならあるんだけど。
互いが共鳴し合うように星が瞬いている。大きさもいろいろ。大きい星はもちろん、小さ
い星も自己主張するようにキラキラしている。
この光星の中に、宇宙人の住む星はあるんだろうか? 案外、エリオと同じ髪の外星人と
とか居たりして。居ても驚き少ないかも。慣れちまった。
・・・あんれ? さっきからエリオの事ばっかりだな。
「イトコ、できた。」
考え事を中断し、エリオに呼ばれて望遠鏡を覗く。
エリオお気に入りの木星が映し出された。すごく遠くにあって、こちらの季節など関係な
く、夏見た時と同じ姿。
あはは、最後もやっぱり木星かよ。
「お前、ほんと木星好きだよな」
ん っと、満足そうに頷いた。
こいつが満足すれば、それでよし。二人の天体観測は大体いつもそんな感じ。
「イトコは木星好き?」
これは初めての問いかけだ。星の事はよくわからんってのが本音だけどなぁ・・・
ただ、木星を見た回数はホントに多い。
2年生の夏休みと3年生の夏休みはほとんど毎日見ていた。そうなると、やっぱ愛着って
沸くもんだよなー
「まあ、俺の知ってる星の中では一番好きかな。あんまし知らんけど。」
笑いながら答える。
「ん。それならうれしい。」
望遠鏡を覗いたまま答えた。
顔は見えないが、とても満足そうな声には聞こえた。
しばらく覗いた後、ソワソワとこっちを見ているであろうエリオに望遠鏡をお譲りし、俺は縁側に腰かけ肉眼で空を眺めていた。
望遠鏡を覗かなくても十分きれいなんだよな、この町から見える星って。
そんな感じでロマンチストな気分で空を見上げていたらエリオが口を開いた。
「イトコ」
「ん?なんだ?寒いのか?」
投げかけた質問を無視するようにエリオは質問を投げ返してきた。
「イトコ、遠くにいっちゃうんだよね?」
「う~ん、まあ遠くって程じゃないけど、少し離れたところに行くかな。」
「そっか・・・そうだよね」
今更そんな分かり切った事を聞いてなにをしたいんだこいつは?違う種類の電波か?
「イトコ・・・じゃあ、しばらくは会えないよね。」
「そうだな。ちゃんと田村さんとこで仕事してろよ?」
「バカにしないでイトコ。私はキャリアウーマンなんだよ。」
「そうだったな。」
クスクスと笑い合う。ただ、エリオはずっと望遠鏡を覗いたままであるが。
「イトコ・・・」
「今度はなんだよ。今日は口数多いな。」