二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
はとさぶろう
はとさぶろう
novelistID. 955
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

人間じゃなくて良かった。

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

「だってメイちゃんは、リンとレンに結婚出来ないって言われて怒ったんでしょ? なら、本当は結婚したいのかなって思って」
つけたままであったヘッドホンを、KAITOはようやく外した。双子のいなくなった静寂が、耳の奥まで染み込むようだった。
MEIKOは僅かに眉を寄せ、首をことりと横に倒す。
「それはさあ……結婚出来る出来ないじゃなくて、暗に年増って言われたことに怒っただけよ。大体、結婚なんて出来るわけないでしょ。アタシ達は人間じゃないんだから」
ボーカロイドの本質は、コンピューターの中に構築されたデータである。リンとレンがまとっていた衣装、小さな巾着へと形を変えた電気信号と何ら違いはないのだ。勿論、KAITOだってそのことは知っている。知っている上で、じゃあ、と再び尋ねる。
「じゃあ、人間だったら結婚したかった?」
電気信号のMEIKOが、KAITOの前で瞬きする。
「メイちゃんが人間で、リンという妹がいて、レンという弟がいて、更にミクとルカの二人の妹がいて、がくぽやめぐもいて、そしてオレがいる。それでも、メイちゃんは結婚したかった?」
「……考えたことないわよ、そんなこと」
MEIKOの声に、小さなノイズが混ざり込む。綺麗に整列していた電気信号に乱れが生じている。彼女が困惑している証拠だ。
KAITOはふっと笑みを浮かべると、メイちゃん、と甘えるような声を出した。
「今度、ウェディングドレス着てみようよ!」
床の上にぱっと立ち上がり、KAITOはMEIKOを見る。驚きに見開かれたMEIKOの瞳に、嬉しそうに笑うKAITOが映り込む。
「マスターがさ、今度は結婚する娘がお父さんに歌う歌を作るって言ってたんだ。だからメイちゃん、ドレス着て歌わせてもらいなよ。そうしたら結婚したいかどうか分かるかもしれないじゃない」
「……馬鹿ねえ、アンタ」
驚いていたMEIKOの表情が、呆れたものへと変化する。
「結婚する歌だったら、アタシじゃなくてミクでしょ」
「メイちゃんだって似合うよ、大人の魅力」
にっこりと笑うKAITOに、MEIKOは諦めたようにため息を吐いた。
「そーね、もし歌わせてもらえるんだったら言ってみるわ」
その代わり、とMEIKOは笑顔のままのKAITOの鼻先に指を突きつけた。
「アンタも一緒にタキシード着るのよ」
「……オレも?」
綺麗に整えられた爪の先から、MEIKOの顔へと視線を移しながら、KAITOは尋ねる。MEIKOの顔には、先程の双子のような、いたずらを思いついた笑みが浮かんでいる。
「そう。父親の気持ちになっている視聴者に当たられる花婿がいなきゃ、こういう歌は始まらないでしょ。がくぽには頼みにくいし、レンじゃつり合わないもの」
だから、アンタね。
そう言って笑うMEIKOの姿に、KAITOはあるはずもない心臓が高鳴るような気がしていた。
こんなに華やかで、生き生きとした笑顔を見せるMEIKOが、ウェディングドレス姿で自分の隣に立つ。想像しただけで、天にも昇る心地だった。
「今の歌さっさと完成させて、アタシの隣で罵声をぶつけられる覚悟を決めておくことね」
MEIKOの手が、KAITOの耳にヘッドホンをかける。流しっぱなしにしていた新しい曲が聞こえてくるのだが、困ったことに、メロディーを追う余裕だって、KAITOにはなかった。MEIKOのためにも、早く今の歌を完成させなくちゃいけないのに。
ひらりと手を振って、MEIKOは去っていく。鮮やかな赤い色が、花のように視界に焼き付いている。
彼女が電子信号の海の向こうへ消えたのを見送ってから、KAITOはその場に座り込んだ。もう一度ヘッドホンを外し、困ったような顔で笑う。
人間じゃなくて良かった。
キミが誰かと結婚なんか出来なくて、本当に良かった。