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吉野ステラ
吉野ステラ
novelistID. 16030
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FAアニメ派生集

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第十三話<依るべき処>





中央へ行くことが決まった翌日。通い慣れた執務室でロイ・マスタング大佐をはじめ部下数名が片付けに取り掛かっていた。
しばらくは中央で留まることになるだろう。職場の片付けが終われば皆転居の準備もしなければならない。時間の余裕がないというのに、彼らは引き出しの奥から何か出てきたのを見つけてはわいわいと不毛な会話を繰り広げている。
何もなかったここから、様々な出来事が始まり、様々な事件を受け止めてきた。気付けば信頼できる部下がひとり、またひとりと増えていた。今は仲間、だと思っている。人数で言えば少ないのかもしれない。けれどひとりひとりの重さは何よりも尊い。
ロイは部屋のなかで同じように荷物を整理する部下たちを眺めやる。軽口をたたきながら騒々しく動く彼らを見て苦笑しながら、机の上の書籍を持ち上げた。

ひらり

本の隙間から紙切れが抜け落ちた。
ひらひらと回転しながら舞う白い紙を目で追う。蝶のような動きのそれを何だったかなと思う反面、実は正体をどこかで知ってもいた。
それが床に落ちても、ロイは凝視したまま身体を動かさなかった。その様子を訝しりながら、リザ・ホークアイ中尉が代わりにしゃがんで手を伸ばす。
「ああ…すまない中尉」
ゆったりと、ロイはリザを見下ろしながら声をかけた。
リザの指が白い紙を掴み取る。そのままぺら、と表に返した。
リザはは、と息をのむ。やはり。とロイは軽く目を伏せた。
それは写真だった。ロイとマース・ヒューズの若かりし頃の。士官学校の制服を着て、肩を抱き合って。夢と希望と大志で胸を膨らませていたあの頃の。
亡きヒューズとの、懐かしすぎる思い出だった。
拾い上げたリザは声を詰まらせた。何も言わずそっと両手で写真を包みこみ、立ち上がった。
静かにロイに手渡す。
「ありがとう」
リザの優しさに包まれた写真を受け取り、ロイは目を伏せたまま微笑した。
写真は見なかった。その中で笑っているヒューズを見ると、もう目が離せなくなると分かっていたから。

分かっていた。
中央へ行っても、そこにヒューズはもういない。どこにも。





「よし、あらかた片付いたな」
最後の書類を段ボール箱に詰め込んで、ロイは室内を見渡した。部下たちはもう自宅の片付けのために帰宅している。執務室には、ロイとリザだけが残っていた。
「中尉、君も帰っていいぞ」
凝った肩を自ら揉み解しながらリザに声をかけた。
机の上を清拭していた彼女は一瞬宙を見上げた。そしてロイを振り返る。
「大佐、エルリック兄弟には異動の件、伝えなくてもいいのですか?」
リザのその言葉に、ロイはふと皮肉に笑んだ。
「伝えようがないだろう。どこにいるのかわからないのではな」
「交換台に伝言しておきましょうか。鋼の錬金術師から電話があれば中央を案内するようにと」
いつになく熱心な物言いに、ロイは片眉をあげた。リザの視線から顔を隠すように窓の外を見やる。夜に落ちる前の艶やかな夕焼けに目が眩む。誘われるように金色の柔らかな髪の毛が脳裏に花のごとく拡がった。
「…余計なことはしなくていい。そのうち中央へくるだろうさ」
不自然なほど冷たい声で答えた。背中にリザの何か言いたげな空気を感じる。けれど気づかないふりをした。
分かっている。少しでも彼との遭遇を先延ばしにしたいと思っている己の不甲斐なさ。
それは…彼につらいことを伝えなければならないから。
ヒューズのことを知ったら、彼はどれほど悔やみ悲しむだろう。
リザから受け取った写真を祈るように掴んだ。そのまま軍服の内ポケットに仕舞いこむ。一番心臓に近い場所に。
ヒューズ。
「まずは中央で情報収集だ」
エドワードに会うのはもう少し先でいい。私には私のやるべきことがあるから。
そうだろ、ヒューズ。お前が命を落とす寸前に残したメッセージの意味を、俺は見つけてみせる。そのためにはどんな危ない橋だって渡ってやる。

彼に会うのはその後でいい。己を律したこの心が、あの不思議な色の瞳の前で、折れてしまわないように。

『無茶するなぁ、大佐は』


彼の声が耳の奥で聞こえた気がした。




  


作品名:FAアニメ派生集 作家名:吉野ステラ