FAアニメ派生集
第四二話<告花>
受け取る前は、久しぶりに養母にでも献上しようかと思っていた花束。しかし、気付けば半分ほど握りつぶしていた。
知りたいと思っていた情報だった。あれ以来音沙汰のなかった彼のことを。きっと彼のことだから危ない目に遭っていてもうまく切り抜けているだろうと、そんな甘いことを考えながら――元気だということが少しでも分かればいいと思っていたんだ。
「鋼の錬金術師、行方不明」
簡潔に書かれたそれを見たとき、目の前が真っ暗になった。
「ねぇ聞いてる?どうしたの?」
馴染みの声がふと耳にとどいた。
「え?」
顔を上げると、女の顔。青い瞳。
「突然来るなんて珍しいじゃない、って言ったの」
そう言って、女の指が首元に伸びてくる。カラーの止め具をはずしていくその動きを、遮ることなくロイは受け入れた。
「ああ…すまないね」
無理に微笑んだら、女に眉をひそめられた。
「私は構わないけど。…何かあったの?」
軍服の上着を抱えて、女はクローゼットに向かう。長い髪の毛がさら、と背に揺れる。
金色の美しい髪。
彼と同じ。
ぎり、と心臓が痛んだ。
「聞かないでくれ…」
両手で顔を覆った。まるで瀕死で呻く獣のようだと思う。
弱い男だと笑うか、鋼の。
とてもこの身ひとつでは受け止められないんだ。
自分の周りから、ひとりひとり、離れていく。
分かっている。傍にいるだけが同志じゃない。志は変わらない。けれど
この胸を占める君の存在が、大きすぎて。自分の心すべてが君の色に染まっていて。
どうしようもないんだ。とてもひとりではいられない。
「いいのよ、大佐…」
白い手が背中に回った。柔らかい女の身体を強く抱きしめる。冷たい髪の毛に頬を埋めた。
「泣いたらいいのよ」
子どもをあやすように細長い指がロイの髪の毛を撫でた。
泣くことなんてできない。私にはその資格がない。
まだ何もしていないのだ。私は何も。
金の髪の毛を指に絡めた。
女の頤が天井にそらされて喘ぎ声が漏れる。その首筋に噛み付くように唇を落とした。
「あ…大佐…」
『大佐…』
低くなりかけた少年の声が、真っ直ぐ射抜く金の瞳が、脳裏から離れない。
エドワード
どこにいるんだ、エドワード。
生きていてくれ。私たちはまだ闘わないといけないんだ。
おまえたちに新しい世界を残すために。
だから、それまでは絶対に死ぬな。
生きて。
エドワード
無残に手折られた美しい花が、枕元でただ静かに頭を垂れていた。
ぎしぎしと揺れる振動に、成す術もなく。