FAアニメ派生集
第二話<Stone>
取り返しのつかないことをしてしまったと思った。
自分の考えを疑いもしなかった。愚かだった。
そうして、弟まで巻き込んで、彼の身体を奪って。
俺は、絶望と虚ろな世界に逃げた。
あの黒髪の軍人が来たとき。
胸倉を力任せに掴まれて、ああこの男は俺を罰しに来たのだと思った。
いっそ殺された方が楽だと思った。
なのに男の手は震えていた。
俺を、何かを押し殺したような歪んだ目で睨んだ。
彼がどんな気持ちでいたのかなんて、俺は知らない。
考える余裕なんてなかった。
だけど、虚ろな世界の中に、男の声だけが飛び込んで来た。
容赦なく。
心の中に突然熱湯をぶっかけられたみたいだった。
「なんだあの有様は!何を造った!?」
誰だよあんた。あんた関係ないだろ。
俺たちのこと何にも知らないくせに。
なのに、なんで
そんな風に怒るんだ。
俺たちは母を失くし、ふたりきりだった。
みんなが優しかった。面倒みてくれた。
だから
こんなに真っ直ぐ叱られたことなんて今まで一度も無かった。
こんな大人、知らない。
「そこに可能性があるなら…前に進むべきだろう」
ああ、この男は俺を殺してはくれないんだ。
可能性なんて、そんなこと簡単に言うな。
俺は取り返しのつかないことをしてしまったのに。
この男には、俺が逃げていることなんてお見通しだった。
こんな大人、知らない。
絶望の中に、痛すぎる熱と眩しすぎる光が投げ込まれて
あんたのその言葉、その声。胡散臭いけど。
あんたの目の奥にあった焔、それは信じてみたくなった。
―なあ、大佐。今なら俺、分かるんだ。
自分の足で立って、自分の腕で
前に進むこと。
それが俺の道だとあんたが言った。
その言葉が
俺を支えるたったひとつの道標になった。