FAアニメ派生集
第十話<白昼>
おまえだけは
守るべき存在ではなく
背中を預けられる同志だった
おまえだけは
決して俺を裏切らないと
俺の側を何があっても離れることはないと
信じていた
疑う余地もなく
なぁ、ヒューズ
おまえは何処にいる?
何を見てる?
俺を一人にして・・・
おまえと一緒に見た未来が
霞んで よく 見えない
「大佐!」
ぐら、と歪んだ視界の中で、中尉の声が聞こえた。
廊下の片隅で、気付けば冷たい壁に身体が半分凭れかかっている。
「ああ・・・立ちくらみがしただけだ」
震える手で、目元を押さえた。身体を起こす。
手を貸そうとするリザを、右手を上げて制した。
「大佐、少しお休みになられては。あれからずっとヒューズ准将の件を調べ続けて・・・身体がもちません」
「問題ないよ」
「ですが、現に・・・」
「中尉。君は君の仕事をしてくれ。私の心配は無用だ」
低い声で、言外に構うなと告げてロイは歩き出す。
立ち止まったままのリザの視線を背中に感じるが、振り返らない。
己に余裕が無いのだと、気付かないわけではない。だが、何かをせずにはいられないのだ。
(家に帰ったところで、どうせ眠れやしない)
心に巣食った空洞が、リアルに存在感を増すだけだ。
強い光が眼に刺さった。気が付くとロイは中庭に出てきていた。
ぐにゃり、とまた視界が歪んで、近くの大木に手をついて座りこむ。
そのまま背をもたれかけた。
「………」
言葉にならない声が、空に溶けた。
親友の名前を口に出して呼ぶことすら、今は恐ろしい。
やるせない想いがいつこの身を襲うかと、怖くてたまらない。
そして問わずにはいられないのだ。
ヒューズ
どうして――
「大佐」
ふいに、しばらく聞いてなかった声が耳に触れた。
大人になりきっていない少年の声。
視線を上げた。
きらきら、と目の前で光が反射する。
日の光と同じ色の髪の毛。見透かすような瞳。
なぜここに
「鋼の…」
「何してんだよ、あんた」
いつもと変わりない、素っ気ない声。
「ぼろぼろじゃねえか」
「鋼の」
壊れた機械のように繰り返した。
ああ
君に言わなければならないことがある。
鋼の
「いいから、休めよ」
柔らかい響きで、少年の声が脳内をつつむ。
日にやけた白い手が近づいてくる。
その手がふわりと頬をつつみ、金の瞳がかすかに陰った。
「泣いてるのか」
哀しみを含んだ声。
いいや
泣いてなどいない。
ただ
寂しい
「はがね…」
もう一度呼んで、目を閉じた。
知らない雫が頬をすべり落ちた。
暖かい手が、雫の跡をなぞる。
ああ
エドワード
俺は嫌なんだ
あいつがいない。
あいつと共に目指した道が
今は見えない。
「眠れよ、大佐」
静かな声が呪文のように神経を弛緩させる。
「あんたの背中は俺が見ていてやる・・・」
薄れていく意識の中で、少年はそう言った気がした。
これからも ずっと みてるから
あたたかいぬくもりに包まれる
閉じた瞼の向こうにきんいろの光が瞬いた
やさしいひかり
は、とタイマーのように突然目が開いた。
もたれていた樹から身を起こし、周りを見渡す。そこは司令部の中庭。
すでに日が傾き、オレンジ色の光が辺りを染めていた。
いつの間に寝ていたのか。
頭を軽くふって、ゆっくり起き上がる。
すこし、頭の中がクリアになったようだ。
何気なく、頬を触る。
(鋼が・・・いたような気がしたが)
無論、こんなところにいる筈はない。
だが己を包む、何かあたたかいものが確かにあった。
ふ、とロイは微笑って、足を踏み出した。
自分を待つ部下の下へ戻ろう。
前へ進んでいくために。
後ろから、誰よりも強い心を持った少年が
追いかけてくるから。