FAアニメ派生集
第九話<見送る背中>
「よーお、エド元気かー?」
病院の廊下で腹部を庇いながら歩いていたエドワードに、後ろから声がかけられた。
声だけで誰かすぐに分かる。こんな陽気な話し方はあの人しかいない。
「中佐。また来たの?」
半ば呆れながらエドワードは振り返った。
見かけによらず優秀なこの人は、仕事が山積みだろうに。
「おっリハビリか?感心感心」
笑顔で隣に来たヒューズ中佐は、がしゃがしゃとエドの頭をかき混ぜた。
うわ、としかめっ面をしながら、エドワードはどこかくすぐったい気持ちになる。
あたたかい。
「無茶しすぎるなよ。傷が開くぞ」
「ああ。けどいつまでも入院してられねーし」
エドワードは、手すりをつかんで歩き始める。それを眺めながらヒューズも歩幅をあわせて横に並んだ。
「ところでエド、大佐どのに今回の件、報告してないのか?」
う。ヒューズの言葉にエドワードの咽喉がつまった。
ばつの悪い顔になる。
危険な場所へ勝手に突っ走った結果、腕は壊れ、大怪我を負って入院したなんて、どの口が言えるというのか。
報告義務があるのは分かっていても、気が重くて電話口にすら立っていなかった。
自分が電話しなくてもヒューズから聞いているだろうと思うと、余計に気が重かったのも、ある。
あまりにもかっこ悪くて。
「ロイのやつ、おまえさんがどうしてるか心配してたぞ」
ヒューズにそういわれて、エドワードは顔を上げた。
「中佐、俺の入院のこと言ってないのか?」
「ああ。おまえさんがあえてロイに報せてないなら、俺がわざわざ言うことじゃあない」
ヒューズは微笑って、エドワードの頭にぽんと手をおいた。
そのまま追い越していく。
「中佐・・・」
「ま、たまには声くらい聞かせてやってくれや。あいつはああ見えて心配症だから」
じゃあな、肩越しにそう告げてヒューズが去っていく。
手をひらひらと振り、彼の背中が小さくなっていく。
「―ああ」
聞こえない距離まで離れたとき、エドワードはひとり、呟いた。
俺の周りは理解をしてくれる大人ばかりだ。
だから、甘えてしまう。
だけど、それじゃだめだ。
分かっているのに。
ロイもヒューズも、エドワードから見れば大人の男で。
親しい彼らは、根底でいつも分かり合っている。
今の自分にはとても真似できないと思った。
もっと大人になりたい。
目の前のひとたちを、理解し、この手で守れるように―。
ヒューズの背中を、見えなくなるまでエドワードは見送った。
そうだ、今度会ったらお礼を言わないと。
今日のこと
毎日お見舞いにきてくれたこと
他にもたくさん中佐からもらった。
ありがとう、と、ちゃんと伝えないと。
今度、会ったら