二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

君想う花の色

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
千鶴はひとり布団の中で、大きな溜息をついた。
 その日は皐月も4日の日の沈んだ夜。しかし色々と雑務に追われ布団に入って一息をついたのは、もうその日も終わりかけの夜中だった。
 つまり、迫った明日は5月5日。
 その日付を千鶴は頭の中で反芻して、また溜息をついた。間違いなく明日は5日で、それは変えようもない事実なのだけれど。なんでもっと早く気がつかなかったのだろう、千鶴は後悔をして目を強く瞑る。今からでも遅くないとは思うものの、布団に入る前から襲われていた眠気に負けてしまうように、すうっと眠りに入ってしまうのだった。

 その始まりも、彼女が屯所に住むことになって幾月か経ち周りの幹部達に慣れてきた頃、会話の流れが生まれ日の話になった時。それぞれの日にちを言い合っては誰と誰が近いだの、つい先日過ぎただの、もう直ぐ迎えるだのとやいやい盛り上がった。ほぼ当然のようにその場にいなかった近藤、土方、山南のその話にもなり、他の二人を残し一番早く答えについたのは、斉藤が口にした土方の生まれた日であった。結局、誰も土方以外の二人の誕生日を明確に思い出せずにその場は終わってしまったので、千鶴も頭の中にその日付だけが残っていたのかもしれない。
 その談話の日から土方の生まれ日はそれなりに遠く、千鶴も祝いの準備をするならばまだ早すぎると感じすっかりその存在を消してしまった。
 そしてそれを思い出したのはつい先日、屯所も季節の変わり目で何かと忙しく千鶴もばたばたとしていたため、考える時間もほとんどとれなかった。そのまま彼の誕生日の前日、夜中を迎えてしまうのだった。

 朝目覚めた千鶴は、昨夜もいつものように考えることも出来ず眠ってしまったことを気負い起き上がる。朝の巡察に着いて回ることになっていたので、いつもよりもすばやく着替えを済まして広間に向かう。その向こうの土間へ朝食の準備をしに、足取り早く歩いた。
 朝食も済ませた千鶴は斉藤の隊と共にその一番後ろで見回りをしている。皆、春という季節で浮き足立っているのか、羽目を外しすぎたような輩がその辺に溢れていた。そのせいでいつもより無駄な時間を食い労力も使うため、ほとんど何もしない千鶴でも帰路に向かう足取りは重く疲れている。せめて帰るまでは皆さんに迷惑をかけないように、と一応はすたすたと歩くように心がけてはいたのだが。
 そこで、そういえば、とここ一週間ほどの悩みを思い出した。これから用はなくとも、今から帰って屯所に着くのは昼飯も終わった半刻後ほどだろう。それから何が出来るだろうと頭を悩ませるけれど、思いつくのは食べ物関連のことだけだった。あとは自分のほんの少しの医療の腕を活かせることだけ。
「あの、斉藤さん、今日って土方さんのお生まれの日、ですよね…?」
「ああ」
 そうだ、と歩く速度も体の向きも変えず斉藤は即答する。やはり間違ってはいなかった。自分の記憶を悔いれば良いのか褒めれば良いのか。
 はぁ、と溜息をつきそうになるけれど、それは彼の誕生日に向けることになってしまうのではと思い直し、心の中でそっと吐く。せめて、何かひとつでも出来れば、いつも忙しく隊務をなさっているのだし生まれた日くらいは、と自分を励ますように思った。その時突然、斉藤が口を開いた。
「何も用意できていないのか」
 的確で真っ直ぐすぎる問いに腹を突かれたような痛みを胸に感じるが、少し声を落として千鶴は答えた。
「はい…。最近忙しくって、考えて何も浮かばないうちに今日になってしまって」
 本当は昨日の夜中なのだけれど。今度は、はぁ、と口から息を吐いて、がっくり肩を落とす。
「副長は言葉だけでもお喜びになる。無理に何かを送ろうとしなくても良い」
「そ、そうだとは思うんですけど、やっぱり、いつもお忙しそうにしてらっしゃるので今日くらいは何か出来ればって…」
 消え入るように言った千鶴は斉藤に顔を向けた。斉藤は先ほどと目線は変わらず少し前を歩いているが、その顔は何かを考えてくれているようにも見える。
 自分でも何かを考えなければ、そう思って前を向き直し、ああでもないこうでもないと悩みながら人の多い広い道を歩いていた。今から用意できるといえばもう食べ物などしか浮かばない。他に何か作るという手もあるかもしれないが、それでは今からまた数日かかってしまうし、いつになってしまうかもわからないため良案ではなかった。
(できれば少しでも体を休めてくださることの出来る何か、が良いんだけれど)
 ほとんど唸って考えていた千鶴の目に、通りの角にある店がうつった。あ、と声を出した千鶴に驚くように斉藤がすっと目線を向け、千鶴もそれに合わせ彼の名を呼ぶ。
 斉藤さん、もしかしたら、いけるかもしれないです、そう言い残して小走りに去った彼女の後姿を、斉藤は追うべきか追わないべきか、彼らしくもなく迷ってたたずんでいた。

 忙しく隊務に追われるせいもあって、土方は最近夕餉の場に出ていない。特別なことが無い限りはだいたい、千鶴が彼の部屋に夕食を運んで、食べ終わったものを片付けるという役目をしていた。今日もこのところと同じように皆と共に夕食はとらずに土方は部屋にこもっていたので、千鶴は少し安堵しながら彼の部屋へ向かう。
 部屋の前に辿り着き腰をおろして、土方さん、雪村です、と短く告げると、入れ、とこれまた返答も短く返ってきた。
 襖を開けるといつものように土方は文机に向かって何か書き物をしていた。千鶴は少し離れた邪魔にならない場所に夕食を置いて、静かに一息ついて土方の背中にまっすぐ向かうように座り直す。
「なんだ」
 気配を察したのか、しかし土方は彼女の方も見ずに言い放った。
「あの、本日は土方さんのお生まれになった日だと聞きまして」
 そう告げると、土方は筆をおいて少し驚いたように眉を寄せ振り向いた。
「なんでお前がそんなこと知ってやがる」
「少し前に皆さんとお話ししてる時、その話になったんです。それで、なんとなく、覚えていたといいますか…」
「まぁ間違っちゃあいないが」
 さっと、文机に向かう姿勢に戻った土方の背中に千鶴は、おめでとうございます、とゆっくり頭を下げた。
「その、贈り物といいますか、ちょっとしたお祝いを持ってきたのですけど」
 祝いの言葉の後すぐにそう言うと、土方はまた驚いたように、今度は筆を手にしたまま振りかえる。
「そんなもんいらねぇよ」
「でも大したものじゃないんです。ほんとうに」
 申し訳なさそうに言い終わった千鶴は、素早く自分の後ろに準備しておいた花瓶を取り出して、畳にゆっくり置いた。
「これ、今日の日にちにちなんだお花らしいんです。おじぎそうって言うんですけれど」
 白い花瓶にさされた二輪の小さな花は紫の色をして、細く綿のような花を咲かせていた。千鶴はその花瓶を少しだけ土方に近づけるように置きなおしてまた口を開く。
「見ていて落ち着くようなお花でもないと思うので、枯れる前の間だけでもどこかに飾ってあげてください。あの、お邪魔にならなければで良いので」
作品名:君想う花の色 作家名:まな