君想う花の色
千鶴はちらっと、低い姿勢のまま土方の顔をうかがった。何とも言えぬ表情でその花をじっと見ていた土方に、千鶴はそっと気づかれぬよう息を吐く。良かった、嫌がられてはないみたいだ。
「お前、今日の巡察の帰りにでも見つけたのか?」
花の茎をもてあそびながら尋ねる土方の指先を、千鶴は追いながら答えた。
「はい。斉藤さんに少しだけお許しをいただいて、お花の店の方に尋ねました」
本当は許しをもらう前に駆け出してしまって、少しでもなくかなり時間をとらせてしまったが斉藤は何も言わずそれを了承してくれた。土方にどうして手に入れたと訊かれるかもしれない、その時はこう答えろ、と予め斉藤に言われていて、千鶴は本当のことをちゃんとお話しする、と告げたのだが斉藤に丸めこまれた。こんな日に小言とはいえど説教をしたくもないだろう、と。
土方は先からずっと沈黙を守って、千鶴も黙ってそれを見ていた。準備の時間もなく案も当然思いついたものだったけれど、何もないよりはましだと自分でも思う。もう少しきれいな花であれば良かったのかもしれないが、生まれた日のその花というのに意味がある、と千鶴は小さく思った。
そう思っていたところ、はぁ、と短い溜息が土方から吐き出された。もしかしていけなかったのだろうか、何かいけないことを、とぐるぐる考えが頭をめぐるがそれを土方の言葉がさえぎった。
「ありがとな」
え、と音も出そうな顔で彼を見上げてしまう。このところ見なかった、普段もあまり見ない微笑に、千鶴は固まったように何も言えなかった。それでも間違ったことはしていなかったんだ、とそれだけ認識できた。
「心休まるような見た目の花じゃあないってのもわかるが、俺はそんなにきらいじゃねぇ」
「土方さんがそう仰ってくださるのなら、良かった、です」
どうしてか、くすぐったい恥ずかしさに襲われうつむく千鶴の頭を土方が撫でた。大きな手だ。自然に口元に笑みが浮かんだ。こればっかりはどうしようもない。千鶴はもう一度、囁くように、聞こえるか聞こえないか、曖昧な声の大きさで言った。
「…おめでとうございます」
上げられない目線の先に紫の花と彼の指先が見え、この花の名前とかたちだけはたぶん一生忘れないんだろうな、そう彼女は思うのだった。