求望
「オレにも、そんな能はないです。要らないんです」
出会った頃に比べれば、格段に大きくなった、それでも、小さい、と思わずにはいられぬ掌を、師のそれに、重ねる。
「レーラァ。もし、世界の中で、誰とも、同じ場所にいることなど、出来なくても。オレは、そんなもの、かまわない」
やさしい場所も、しあわせな人々も。
ただ、あなたが、見つめるから。
「あなたが、望むのでなければ。オレは、『この中』には、用はない」
―――もしも、あなたが望むのであれば。
「……いつか、本当に右腕を失うかもしれんぞ」
「そのときは、そのときです。レーラァ」
戦装束を脱ぎ、人とも変わらぬ姿をさらそうとも。
安らかな場所に居られぬのは、「自分たち」の性であり、何より。
「自分たち二人」の、本能なのだから。
「好きこのんで、この道を行くか。まったく、お前にまで、ブロッケン一族のどうしようもない性分が継がれなくてもいいものを」
「オレは、あなたの弟子(シューラァ)ですから」
あなたは、オレの、師匠(レーラァ)だから。
「……帰るぞ、ジェイド」
「ja,Lehrer!」
あたたかい日差し、
やわらかな風、
みどりの葉陰。
―――もしも、あなたが、望むなら。
「……オレの、レーラァですから」
こぼれる陽光、
葉のさやぐ風、
くろく閉じ込める陰。
天球のすべてよ、どうか押し留めて。
手の届かぬ場所へと、この人が行けぬように。
「ジェイド?」
「行きましょう、レーラァ。まだ、先は長いですし」
―――もしも、望むなら。