よくわからない15のお題_TFマイ伝
01) 朝の風景
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何がどう、というわけじゃ、ないのだけれど。
ただ、慌ただしいばかりの朝の学校で、一人。
廊下に佇む彼女を見かけた、というだけの話であって。
ただ、その彼女の横顔が、あまりにも静謐で、あまりにも、厳しくて。
見たこともない、顔だった、というだけのことであって。
それがどう、というのではなく、ただ。
目を、奪われたのだ。
「おはよう、アレクサ」
ただ、その舌に馴染む言葉を口にするのに、自分がどれだけの力を振り絞ったのか、なんてことは、きっと、彼女は知りもしないだろう 。
「あら、おはよう。ラッド」
振り向いて、いつもの笑顔を浮かべた彼女は、見慣れた彼女で。
何を、思っていたのか。
何を、見ていたのか。
そんなことを訊く機会を、自分は鮮やかに奪われてしまう。
「どうかしたの? 元気ないんじゃない」
肩を並べて、歩き出しながら。いつも通りの声に、いつも通りに苦笑を帰して。
「そんなことはないけど」
「そう?」
「そうだよ」
そう、自分はまったく、いつも通りであって。
いつもと違うのは、彼女。
……いいや?
もしかしたら。
覚えた疑念に、予期せぬ衝撃。
感じる頭の奥深く、けれど実際にはきっと、後頭部の表層に過ぎぬ場所。
そんな場所が、震えた。
「なら別にいいけど。体調が悪いなら、今日は真っ直ぐ家に帰ったら?」
「そうもいかないだろ」
そうも、いかない。
だって、
「まあ、そうなんだけど。今日こそ、見つかるといいわね。マイクロン」
「そうだな」
だって。
見たことのない彼女の顔。それが、もし。
自分の目を奪った彼女の目を奪わせたものが、もし。
「……早く、放課後になればいいのにな」
「ふふ。そうね」
ああ。
早く、確かめて。
早く、決めなくては。
自分が、どうするのか、を。
作品名:よくわからない15のお題_TFマイ伝 作家名:物体もじ。