よくわからない15のお題_TFマイ伝
04) 頼みごと
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トランスフォーマーは、有性生殖で殖えるわけではない。
……いや、それはある意味当たり前ではあるのだが。
人格に、人間で言うところの女性的、男性的という別はあるものの、繁殖に関係ない以上、それは単なる個性の域を出るものではない。
だから、マイクロンたちには今ひとつ分からなかった。
カルロスとラッドの表情も、アレクサの態度の意味も。
あるとき、マイクロン反応と一緒に、ひとつの映像が届いた。
真っ直ぐな金色の髪と緑の瞳の、綺麗な少女。
困ったような声と、かすれた映像、それは彼女が危難の内にあることを容易に知らせ、それを見たカルロスは、途端に落ち着きをなくし、いつにも増して皆を急かしたり、基地の中を歩き回ったりしていた。
「ラッドは、気にならないのか?」
「えっ……」
それから、ラッド。
いつもと同じように落ち着いて見える彼も、そう問われたとき、不意をつかれたように黙り込み、数瞬のち、何を思ったのか、珍しく首まで真っ赤に染めてしまった。
それを、コンボイやラチェットは面白そうに眺めていたけれど、ひとり、アレクサだけが気に入らない、というような態度でいたものだ。
マイクロンたちも揃って首をかしげて、そんな子どもたちを見ていたけれど、ふと、ウィリーは気付いた。
普段はすましたアレクサの年相応にふくれる顔、けれど、つと視線をずらした彼女の、不思議な、不思議な眼差し。
ウィリーは大きい人間をほとんど見たことがなくて、だから、それを見ても、「大人びた」という表現は思いつかなかったのだけれど、もし他の人間が見ていたなら、きっとそう感じただろう、横顔。
その顔は、最初に映像が送られてきたときも、海底の神殿から戻ってきて、カルロスがらしくなく落ち込んでいるのを見ていたときも、同じ。
機嫌のよろしくない顔でクラスメイトの二人を眺め、それから、コンボイやホットロッドたちを見上げる。
ウィリーにはよく分からない、不思議な不思議な眼差しで。
彼女のそんな様子は、見たことがなくて、解析出来なくて、ウィリーは少しばかり、混乱する。
それはアーシーに尋ねてみても、解らない謎で、でも、ラッドに訊いてみようという気も、何故か起こらなくて。
それは、不思議な不思議な感覚。
ウィリーは、アレクサを凝っと見つめる。
それから、ラッドに視線をうつす。
どうしてだろう。
不思議な、不思議なあの顔、マイクロンには解析出来ないあの顔が、とても「似ている」と思うのは。
時どき、ラッドは、あのアレクサと良く似た眼差しで、彼女を見ている。
アレクサが、大きなトランスフォーマーたちを見上げるのと、とても良く似た眼差しで、見ている。
いや、そうじゃなく。
アレクサの眼差しが、ラッドのそれと良く似ていたから、ウィリーは気付いたのだ。
それでも、ウィリーにはそれ以上のことは、解らない。解析出来ない。
だから、ウィリーは凝っとアレクサを見つめてみる。
不思議な、不思議な眼差しの意味を、知りたくて。
ラッドたちに、少しでも近づきたくて。
「あら? どうしたの、ウィリー」
ひとつため息をついて振り返るアレクサは、いつもの、ウィリーの知る彼女と変わらない。
沈んだカルロスが外に出て行って、それを追いかけるラッドの背中を見送るときと、変わらない。
「ラッドについて行かなくていいの?」
本当は、アレクサに訊いてみたかったのだけれど。どうして、あんな目をするのか。声が出せればいい、と思ったのだけれど。
でも。どうしてもそうしたかったのなら……アーシーに、頼めば良かったのだ。
アーシーならば、彼女と意志を交わすことが出来るのだから。
なのに、どうしてそうしなかったのか。
首をかしげるアレクサに対しながら、ウィリーは自分を解析した。
「……ねえ、ウィリー」
す、とアレクサはウィリーのスキャナ・アイの中を覗き込む。
どうかしたのか、と問いかけようとしても、その声は、ポポン、という電子音としか、彼女には聴こえないのだろうけれど、精一杯に、ウィリーは見つめ返した。
「不思議ね。何だか、あなた、何でも見透かしてしまっているみたい。ふふ。それともわたしの考えすぎかしらね?」
触れてくるアレクサの指は、大きなトランスフォーマーたちはもちろん、ラッドともやっぱり違っている。
彼らは、全然ちがうのに、どうして、こんなに、似ているんだろう。
見透かす、というのは、何なんだろう。
「わたしの顔に、何かついてる?」
にこり、笑うアレクサは、いつもとは違うような、それに、あの、不思議な不思議な眼差しをするときの彼女とも違って見える。
「ね、ウィリー。ひとつ、お願いしてもいいかしら?」
ポン、と、返事をかえす。
肯定だと、声は通じなくても、きっと彼女は解ったのだろう。ちらりと後ろをかえりみて、まるで内緒話でもするように顔を近づけた。
「もし、もしね。あなたが何かに気付いたとしても、出来れば、黙って……見ていて欲しいの」
暗いフェイスガードの奥、思いのほか感情を映してくるくると動くスキャナ・アイが、限界まで見開かれる。
慌てたようにきょろきょろと回るその目を見て、アレクサは悪戯っぽく微笑んだ。
「たいしたことじゃ、ないのよ。ただ……何て言うのかしら。もし、あなたがわたしのことで何か気付いてしまったとしても、それは、わたしの個人的なことだから……ラッドとかに知られると、恥ずかしいもの」
ね、と重ねて言われ、ウィリーは少し考える。
もともと、マイクロンには嘘をつく、という概念はないし、隠し事も、たったひとつを除いてはしないのだけれど。
アレクサの言うのは、きっとあの眼差しのことなのだろうと思いついて、そうしたら、何だか、もううなずくしかないように、ウィリーには思われたのだ。
「ありがと。ごめんね、変なこと頼んじゃって。でも、ウィリー、あなたで良かったかも」
くるり、と背を向けたアレクサを見送って、ウィリーもラッドたちはどうしたかと、外に足を向ける。
そのとき、唐突に。
ウィリーは解析出来た(わかった)。
不思議な、不思議な、ラッドとアレクサの、眼差し。
あの中に、微量ながら含まれていた……ウィリーにも解析可能な、ひとつの感情。
そのために、ウィリーは、アレクサの頼みごとを、きいてしまったのだ。
あまり嬉しくない、ウィリーにも覚えのある感情。
微かで、でも、確かに混じっていた解析結果。
かなしみ。
作品名:よくわからない15のお題_TFマイ伝 作家名:物体もじ。