自由電使
ネットナビとオペレーターの結びつきは、一般に強い。それはそうだろう。今や生活に欠かせない端末であるPETに常駐し、行動を共にする相手なのだから。
元々は量産型の無個性なナビでも、カスタマイズする内に独自の成長を遂げ、やがては正しく分身と呼べる存在になっていく。
家族とも友人とも恋人とも違う、自分だけのパートナー。
ナビにしてもオペレーターにしても、どうしてその相手を大切に思わないことがあろう。
そしてその中でも、自分たちの絆は強いほうに違いない、とロックマンは確信している。
オペレーターである光熱斗のためだけに造られた自分はそもそもの根本からして量産型とは設計が違うし、その違いというのが、つまりは自分と熱斗の関係にある。
ロックマンには、自分のプログラム(DNA)が光彩斗―――熱斗の双子の兄のものである、という知識がある。しかし当然ながら、1歳足らずで亡くなった光彩斗としての記憶はない。
それでも、その事実は自分と熱斗を強く結びつけていると、そう思う。
あまりにも同じになりすぎることを恐れて、ほんの少しだけ変えられた構造は、自分たちを隔てる壁になど、なり得ない。
塩基配列が0.1%違えば完全なる他人。では、0.001%だったならば?
どこまでも自分に近しい他者。だからこそ、自分たちは、一体でいられる。違うからこそ、寄り添えるのだ。
それを嬉しく思う自分の感情(プログラム)は、つまり、人とは0.001%ほど、違ってしまっているのだろう。
本当は、その差はすでに埋まってしまっているはずなのに。
『プラグイン、ロックマンEXE、トランスミッション!』
『プラグイン、ブルース、トランスミッション』
転送された場所に組み直された身体(データ)、目を開けば、同じようにして現れた赤のネットナビが、少し離れた場所に佇んでいる。
にこりと笑って右手をバスターに変えれば、相手も無言でソードを顕現させた。
『今日っこそは! 吹っ飛ばしてやるからな、炎山!』
『出来るものならな』
威勢の良いパートナーの台詞が、バスターにエネルギーを込めさせる。
『行くぜ、ロックマン!』
「うん、熱斗くん!」
『相手をしてやれ、ブルース』
「はい、炎山さま」
彼が強さを求めるというのなら。
自分は、何をおいても、それを最優先に体現しよう。彼の代わりに世界を駆け、何ものにも負けることなく、この仮想の空間を征してみせよう。
例えこの造られた世界であっても、誰より大切な親友に、最強の名を捧げるために。
「負けないよ、ブルース」
「こちらの台詞だ」
だから。だから。
この世界でなら、君を誰よりも自由な存在にしてあげるから。
『バトルチップ、バルカン、スロットイン!』
『バトルチップ、エリアスチール、スロットイン!』
自分は、かつて自分だった人間など羨まない。彼と同じ世界など望まない。
『かかったな! キャノン、ハイキャノン、メガキャノン、トリプルスロットイン!!』
『甘い! ソード、ワイドソード、ロングソード、トリプルスロットイン!』
だから、どうか。
「『プログラムアドバンス!!』」
このつながりをどうか、手放さないで。