大人の態度
一定の容量を持つデータが転送されてくる、独特の圧迫感。
それがすでに馴染んだ相手のものであることを知るともなしに悟り、リアクションを起こす必要性を感じなかったので、ブルースは作業を継続した。
複数開いたウィンドウを並行して処理しながら、後方に向けてわずかに開放した感覚が、直感に誤りなく現れた存在を捉える。
振り返りはしない。どうせ相手はブルースの反応になど頓着せず、好きなように振舞うに決まっているのだから。
さあ今日はどう来るか。穏やかに挨拶から入るのか、いきなり飛びつかれでもするのか。
何のアクションも起こさずとも、ただ相手を追っていた感覚が、ふとおかしな揺らぎを知覚する。
反射、思わず振り向いた先には、記憶(キャッシュ) にも感覚(データ照合)にも違わない、小柄 な青いナビの姿。
ただ、その瞳だけが常と違い、夜の湖のような暗い緑に沈んでいる。
「―――どうした」
一歩近づけば、ふらりと手を伸ばされた。その指が自分を探し、すがりつくのを許しながら、ブルースはただ、ぞっとするほど静かに自分を見上げてくる幼い顔を見下ろす 。
「どうして、そんな顔をしている」
まるで、いつも彼を彼たらしめ0と1を統率している奔放で確固たる意志が失われ、ただのデータの集合体になってしまったような、見開かれた瞳。
歪むことも潤むこともなく伏せられたそれごと、頭が自分の胸へと押し付けられる。
どうしたというのだろう。何があったのだろう。
困惑するブルースになど構わずに。ただ彼はしがみつく腕に力を込めた。
ただ慰めるすべなど知らない。教えられなければ、彼の気持ちすらわからない。
不甲斐ない思いに囚われ、彼の背に腕を回して、その頭に頬を押し付ける。
「ロックマン、……何とか言ってくれ」
頼むから、こんな不安なままで、放り出さないで。
自分が、彼のすべてを受け止められるくらいの容量(キャパシティ )を持っていたなら、良かったのに。