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物体もじ。
物体もじ。
novelistID. 17678
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ever bloom

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「どうして日本では桜が好まれるのか、知ってる?」

「潔く散る様が大昔のサムライの精神性に合致したからだろう」

「はい正解。商品いる?」

「……言う前から出すな」



 ひらり、と淡いピンクの花びらが現れた。



「あれ?」

「……」



 ちょうど頭上から降るように、視界を埋め尽くさんばかり、吹雪にも似て舞う大量のそれを見て、ブルースは呆れて腕を組む。



「やりすぎだ、ロックマン」

「あ、あははー……おかしいな、もうちょっとこう、風情を出したつもりだったんだけど」



 かすみか雲か。花びらに邪魔されて見えにくい相手が、困ったように目をさまよわせた。

 さぞかし足元に積もるものかと思いきや、うまく作ったもので、地面に触れる寸前、データは分解されて掻き消える。

 その様は確かに、咲いては散る本物の桜を彷彿とさせた。



「でも、この降りかたはうまく出来てると思わない? ランダムにひらひらさせるの、案外苦労したんだよ」

「常々思っていたんだが、お前は暇なのか」

「うん、割りと」



 とりあえず暇つぶしも兼ねてこんなプログラムを組む程度には。

 けれど思ったよりも邪魔だと花びらを消してしまう。元の通りの味も素っ気もない場所をぐるりと見回して、ロックマンはやはりいつも通りの相手を見上げた。



「ねえ、ブルース。どうして、熱斗くんがこんな夜中にお花見、なんて言い出したか知ってる? しかもママに黙って抜け出してまで」

「知るわけがないだろう」

「うん。たぶん、炎山くんもそうなんだろうね」



 にこりと笑って、手品師のような芝居がかった仕草で差し出される、右の拳。

 くるりと上向きに広げられた手のひらには、鮮やかなブルーに遠慮するように一枚だけ、桜色の花びらが乗っていた。



「願掛け」



 ふっと吹かれて、ひらりひらりと頼りなく、プログラムされた動きに従って、花びらが宙を踊る。

 何とはなしに伸ばした手、赤い指に触れて、淡いピンクのデータは姿を消した。



「毎年、桜って咲くからね。来年も、その先も、ずーっと炎山くんと一緒にいられますようにってこと、だよ。たぶんね」



 目を合わせるため、つんと顎を上げた緑の視線が、わずかに険しさを孕む。

 表情のうかがえない暗いバイザーの向こうを見据え、彼は言った。



「もし……もし、熱斗くんが傷つけられるようなことがあれば、僕はきっと、ゆるせない」

「何の話だ」

「君には、わからないのかもしれないけど……炎山くんに、伝えておいて、ブルース」



 データで構成されていたピンクの花びらのように、笑顔を消し、電脳空間には昇らない月を見上げるように視線を流して、ロックマンは呟いた。



「桜はまた、咲くけど……人はそうじゃない」



 何もない手のひらをかざし見て、無言で立つ、ブルースに言う。



「まして僕ら(ナビ)は、初めから、咲きもしない しね」



 寸刻のちに、今のは忘れて、と言って。



 桜の花のように、淡く、彼は笑った。




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(n)ever bloom


作品名:ever bloom 作家名:物体もじ。