5月は恋の季節
とりあえず、一番近くにいたフェリシアーノをハグしてみた。
「ヴェー!?」
次にその隣にいるルートヴィッヒをハグ。
「おい!?」
当然ながら硬い。男だという事実はこれほどに大きい。
突然の奇行に慌てる二人に力ない微笑みを投げて、フランシスはよろよろと講義室を出た。
つい先ほど自覚したばかりの恋心が重い。
謝罪を受け取ってくれたからと言って楽観的な気持ちにはなれそうもない。
もう話しかけたりしないと明言してしまったのだし、友達としての付き合いすら絶望的だ。
良く晴れた五月の青空も、気持ちのいい風も、全部がどうでもいい。
「おーフランシスー! どうやった?」
「なんだぁその顔。今にも飛び降りそうだな。ってここ一階だけどな! ケセセセッ」
ふらつきながら帰ろうとしているとアントーニョとギルベルトが声をかけてくるが、内容がよく頭に入ってこない。
「あちゃあ……この様子じゃだめやったんかー。よしよし、親分らが慰めたるわ!」
「いいぜ、俺様がたっぷり話を聞かせてやるぜ!」
「いやいや、お前が話してどないすんの。話すんはフランシスで、親分らは聞き役やろ。それが親分の、上に立つもんの度量ってやつやし」
「俺様は親分じゃなくて俺様だからな! 好きなようにやってやるぜ!!」
ぼうっと突っ立っているフランシスの耳には、何も入ってこない。世界は厚い膜越しのようで、酷く遠い。
「フランシス……? これはホンマに重傷やなぁ」
「おい、聞こえてんのかよヒゲ、おいって」
「あ……うん、ごめん、ちょっと、今そういう気持ちになれなくてさ。ごめん……。俺帰るよ。ありがとね、二人とも」
「うっわ気色悪い! フランシスが素直に謝りおった!!」
「おいおいおい、大丈夫かよ……本田にどんだけざっくり傷つけられてんだよ。顔に似合わずおっかねえからなーあいつ……」
ギルベルトの口から本田の名前が出て、フランシスはうつむいた。
名前を聞くだけで恋心が重くなって胸が痛い。
「じゃあ」と言って、フランシスはどうにか足を進める。
悪友達と別れてからどうやってアパートにたどり着いたか覚えてないが、ベッドに転がって枕を抱いて、一睡もせずに翌朝を迎えた。
時計を見ると、朝6時半だった。
大学に行く気にはとてもなれないが、本田は一限目から講義のはずで、遠くからこっそりのぞく位大丈夫かな……と考えが浮かぶ自分に嫌気がさして、枕をさらに強く抱きしめて顔を押し付けた。
「みんなこんな風に恋してたのかね……」
思わず独り言が口をつく。
今までフランシスはたくさんの女性と恋をして、お付き合いをして、切ない恋も激しい恋も悲しい恋も、恋愛経験として積んできたはずだったのにそれらは今何の役にも立たない。慰めにならない。
「頭おかしくなりそう」
会いたい、会いたい、胸が痛くて破裂しそうだ。