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5月は恋の季節

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5月は恋の季節4



それからもしばらく二人の攻防は続いた。
本田は気配を消すのが異常にうまい。それこそ忍者の末裔なんじゃないかと思うほどだ。さっきそこにいたと思ったら、次にはもう人にまぎれている。和やかに会話していたルートヴィッヒとフェリシアーノですら驚くほど自然に、いつの間にか姿を消している。

「本田!? さっきまで確かにいたよな…」
「菊ー!? すごい、壁抜けみたいだね!」
「か、壁抜け…?」

しかし、一週間粘り強く…というよりねちっこく張り付いているうちに、フランシスは本田の受講している講義を割り出すことに成功した。
仲のいい二人の取っている科目、資格に必要な科目、必修科目、そのうちから出席を厳しく取る教授の授業を選び、いくつかの候補に絞る。

「さて……行きますか」

顎に生える無精ひげを一撫でして、フランシスは自分自身に頷いた。



昼前の講義が終わり、フェリシアーノが最近見つけたというイタリアンカフェに行こうと、ルートヴィッヒも交えた三人で話がまとまって、和やかに笑いながら筆記用具をまとめていると、その手を突然横合いから掴まれた。

「捕まえた…!」
「っ!?」

にやり、と笑う男に本田は口をあんぐりと開けた。人の気配には敏い方だという自信があったが、全く気付かなかった。

「この間のことだけど」
「私は何もお話しすることはありません」
「ちょっとだけ時間ちょうだい」

硬い声と表情にぴしゃりと遮られてもフランシスはめげなかった。二人のやりとりを、フェリシアーノとルートヴィッヒは心配そうに見守る。

「放してください」
「放したら逃げるでしょ。だめ。ねえ、ちょっと借りるから」
「私はモノじゃないんです!」

声を張り上げてフランシスを睨む本田に、ルートヴィッヒが仲裁に入ろうとするのを空いている手で押しとどめ、フランシスはさらに強く本田の手を握った。
振り払われる前に、と早口で告げる。

「この間はごめん。あんなことして、金だけ置いて逃げるなんて本当に最低だ」

うつむいて、聞きたくないという風に本田は首を横に揺らした。
それでもフランシスは言葉を重ねる。

「ごめん。信じてもらえないと思うけど、あれはそういう金じゃなかった。違うんだ」

背の低い本田が深くうつむくと、フランシスから表情をうかがい知ることはできなくなる。黒い髪のつむじを見ながら、不意に泣きそうになってフランシスは自身の薄い唇を噛んだ。
頑なな拒絶の向こうに言葉は何も届かない。それでも言わなければならなかった。

「……全部言い訳になっちゃうね。申し訳ない。もう二度と、こんな風に、話しかけたり……しない、から。不快な思いをさせて本当にすみませんでした」

逃がすまいと掴んでいた手を放し、フランシスは深々と頭を下げる。

「もう、いいです……。人が見ていますから、やめてください」

凍りついたような時間を溶かしたのは、ぽつりとした本田の声だった。
それでも顔を上げないフランシスにさらに困惑した声がかかる。

「頭も上げてください。本当に、もういいですから。お互いなかったことにしましょうと先日も申し上げたはずです」

そっと頭を上げると、黒い瞳がわずかに揺れながらフランシスを見ていた。眉を下げた本田は「酒の席のことです」とうっすらと微笑む。その顔からは何も読み取れない。

「ごめん」
「はい。お酒、少し控えられた方がよろしいですよ」

ぽつんとこぼれた謝罪の言葉を受け取った本田は、横で黙って見守ってくれていた友人に向き直る。

「……フェリシアーノ君、ルートヴィッヒさん、申し訳ありませんが本日のランチはご一緒できかねます。一度家へ帰りますので。また後日ご一緒させてくださいね。それでは」

ぺこりと軽く頭を下げて、本田菊は荷物をまとめてさっさと歩きだした。まっすぐな姿勢の良い後姿が、振り返らずに講義室の外へ消える。

「ええと、菊、許してくれたみたいでよかったね!」
「そ、そうだな」
「……はは」

どん底の気分だった。
これ以上に最低最悪の気持ちなんてありっこないと、今ならフランシスは断言できる。
掴んだ手が震えていたことがショックだ。その手の感触や温度が自分の中から消えていかないことも。
振り返ってみれば、こちらを避ける相手にこんなに食い下がるなんて、普段のフランシスからは想像できない。内容が内容ではあるが、間に人を立てるなりして、もっとスマートに解決できたはずだ。それこそルートヴィッヒやフェリシアーノにでも頼めばいい。
だが会うことに執着した。
もう一度、自分でと、ほとんどストーカーまがいのことをして今日やっと捕まえた。

「ああ……」

口から洩れた絶望的なうめきに、横の二人が心配して何やら声をかけてくるが耳に入らない。

どうしよう 恋に きづいてしまった

作品名:5月は恋の季節 作家名:はまこ