CC大阪84無配
彼といると、ペースを狂わされる。
それがどういうことか考えて、考え続けて、否定しようと努力した。にもかかわらず、最終的に不本意極まりない結論にたどり着かざるを得なかった。
「僕は、貴方のコトが好きみたいです。」
「……いきなりどーしちゃったのバニーちゃん。」
トレーニングルームのロッカー室。他のヒーローがいないタイミングを見計らって告げると、オジサンは一瞬ポカンとした後、いや嬉しーけど!とくねくね妙な動きをした。
「……通じてないんですね。」
「へっ?」
意味をきちんと理解していれば、こんなお気楽な態度が取れるはずもない。俺は苛立ちまぎれに眼鏡のブリッジに触れ、嘆息した。詳細な説明を省いた自分も悪いが、相変わらず彼の思考回路は少々お粗末に過ぎるようだ。
ぱちくりと開かれた目は、何言っちゃってんのこのウサギ、と雄弁に語っている。茶色い目には年甲斐もない子供っぽさばかりが見てとれて、これまた腹立たしい。
「恋愛的な意味ですよ。」
「はい?」
「僕は、貴方に性的欲求を伴う好意を抱いている、と言っているんです。」
「……。」
投げ遣りな俺の言葉にオジサンはやや首を傾げていたが、おそらくはセイテキヨッキュー、という単語の変換に時間がかかったのだろう。しばしの後、ずざっ、と音を立てそうな勢いで後に下がり、ぺたりと背中でロッカーに貼りついた。
「い、いやオジサンそういう趣味は……」
「まあ、そうでしょうね。」
「早えなオイ!」
何故だか憤慨しはじめた相手に、肩をすくめる。相変わらず意味が分からない。
「だから困るんです。貴方に近寄られると興奮しますから。」
まじまじと見開かれた目に、正気ですかバニーちゃん、と今度はくっきりと書いてある。
口の端に、微かな嘲笑が浮かぶ。無邪気さは美徳かもしれないが、そうではないと自覚する人間にとって苛立ちの材料でしかない。
(……。)
俺は深呼吸して、妙な姿勢で壁とドッキングしている所為でかなり低いところにあるオジサンの目を見下ろした。
「そういうワケで、もう僕には近付かないでもらえませんか。」
「な、」
「僕のためを思うなら、協力して下さい。」
内容もそうだが、こんなに低姿勢で彼にお願いをするのもはじめてかもしれない。呆然とするばかりの彼に、大声で笑い出したくなる衝動を必死でこらえる。
俺は彼に背を向けて、ロッカー室の扉へ向かった。ドアをオープンして一歩廊下に踏み出し、やがて背後のドアが自動で閉まるまで、息をつめて背後を窺う。
能力を発動しなくたって、他人の気配には敏いつもりだ。
彼の動く様子はない。いつもなら、この後メシ行こーぜ酒はどうだ親睦を深めようぜバニーちゃん、などとまとわりついてくるオジサンも、さすがにあんな告白の後では、気軽に触れ合うことに躊躇を覚えたか。
(……。)
予想通りの結果にうっすらと笑みが浮かぶ。けれど、胸がキリキリと痛むのはどうしてだろう。