鈴鳴の秘宝 第三章 離苦
Episode.17 守る事の意義
「うーん…!今日の仕事終わり!」
時間は8時30分を少し過ぎたくらい。
「リンさんやエオリアさんには少し悪いけどね」
「あはは…でもあたし達にやらせてばっかじゃここの遊撃士としての名がすたるとか?あたしならそうだし!」
「……」
「何その可哀想なものを見る目!!」
「…別に?」
「納得いかない…あ、そうだ」
腰に付けたバッグから手紙を取り出す。
「それは?」
「えっと、なんでかケビンさんから手紙が来たのよね。今日の12時に星見の塔に来てほしいって」
「エステル一人で?」
「ううん。なんかヨシュアも」
「すぐに終わるのかな」
「さぁ…?」
中央広場にさしかかり、エステルが露店を指さし何かを買うかと尋ねる。ヨシュアはそれに頷き、彼女に買うものを任せた。
「あれは…」
「ん?どうかした?」
「いや、ロイド達じゃないかと思って」
「ホントだ。ってティオちゃんなんか逃げてない?」
走ってそのままロイドを振り切ろうとする。だが結局捕まり、何かを話していた。
「うーん…」
「あ…またどこか行っちゃった」
「…ロイド!」
迷子のような顔をしたロイドに少し驚いた。
いつも同年代ながらも凛々しい印象があり、二人は初対面から感心していた。
「どうかしたの?」
「…なんでもないよ」
「遠くから見てたんだけど…ティオちゃんと何か?」
「……」
「エステル、ティオちゃんの事追いかけて」
「オッケー!」
「…ケビンさん達に?」
「ああ、ヨナ…俺達の知り合いから電話がかかって来てさ、ティオが昨日、怪しい電話をしてたって」
この際、盗聴に関しては気にしないでおこう。
自分達の知り合いが怪しい会話をしていたという事からしてみれば些細な事のように思える。もちろん、見逃してはいけないのだが。
「…内容は?」
「……10時に教会。そのあとで鈴の回収に行く…」
「…なんでティオちゃんが」
「分からない。でも危ない事をするのは確かだし、何より鈴に関係するとティオの体調は悪くなる…だから行かせたくないんだ」
「でも、あの二人の事、毛嫌いしてたよね?」
「…一つ情報があるそうなんだ。それはすごくティオにとって重要なもので」
更に深い影を落とす。ヨシュアは躊躇いながらも、そこに踏み込んだ。
「その情報って…?」
「ティオちゃん!!」
呼ばれて振りかえるのは人の習性だが、追いかけてきた人を見て、彼女は再び走り出した。
「逃がすかぁっ!!」
ストレガー社のスニーカー。履きなれたものだから思い切り走る。
「つーかまえたっ」
「あ…」
後ろからエステルが抱きつく。
「疲れたでしょ?座ろっか」
無言で頷く。それをエステルは笑顔で見て、飲み物をティオに手渡した。
「ありがとうございます」
「で、何で逃げたの?」
「…用事があって、急がないと間に合わなさそうだったので」
「バスもあるし、そんなに急がなくてもよかったんじゃないの?」
「……」
「もしかして、ケビンさんに呼ばれたとか?」
向かう先にあるのは七耀教会。
人を待つとしたら最適な場所だ。
「!?…は、はい」
「一人で行かないとダメだったの?」
「連れて行きたくなかったんです。私が」
「…星見の塔、ですか」
『ああ、君の言うた事を裏付けるために必要なんやけど、俺らどうも鈴に嫌われてるみたいでなぁ』
「なんとなく分かりますね。それで?」
『一緒に来てほしい。念のためエステルちゃん達には手紙を送っておい…』
「どうかしましたか?」
『ヨシュアくんに送るの忘れとった』
「知りませんよ。それと私は―――…」
『交換条件。君の欲しい情報をなんでも一つ調べたる』
「……それは信用に足る情報ですか」
『確実に』
少しのためらい。
「…なら、鈴の事について知っている事全てを話してください」
『…了解』
「では、また明日」
貴方に被害を加えさせない。
『俺の弟なら、お前を頼めるかな。いや、まだ死ぬつもりはないぞ!?』
だって、恩人の大切な人で―――
『一人で背負いこまないで』
それは皆に言われた事で。
でも、私はそれを無視するしかない。
だって、守りたいから。
「…どうしろと…いうんですか」
「…分かるよ、ティオちゃんの気持ち」
「エステルさん…」
「あたしもね、誰かを守りたくて遊撃士になったの。大切な人を守りたいって」
「……」
押し黙るティオに意を決し、先ほどより少し口調を強めた声色で続けた。
「仕方ないとは言わない。でもロイド君、すごく傷付いてたんだよ?分かってるよね」
「…はい」
「それならいいの。相手の思いも分からないままでその人を守っても、意味ないから」
それはただの押しつけ。
それは次第に守るから守ってあげている、に変わっていってしまう。
「それに…その、好きなんでしょ?ロイド君の事」
微笑みながらなぜかエステルが顔を赤くして言う。
「!?」
「あははー」
照れ隠しに笑う。自分の事には果てしなく鈍いのに、というのは周囲から、特にヨシュアからの言。
顔を下に向けて、小声で呟く。
「ま、まぁ…そうなんだと思い、ます」
「いいんだよ、ティオちゃん。そのままで」
「…はい」
ほんの少しだけ、気が楽になった。けれど気が晴れるのは彼に謝ってからだ。
作品名:鈴鳴の秘宝 第三章 離苦 作家名:桜桃