ロックマンシリーズ詰め合わせ
03/鬼 (ロックマンX・ゼロ←エックス)
こちらへおいで、手の鳴るほうへ。
こちらへおいで、私のもとへ。
『ゼロ……ゼロなのかな? 俺の知らないゼロだ……』
何て欺瞞、何て醜悪。
ちがうだろう、本当は。
ちがうだろう、俺は。
他の誰が、例えシグマですら知らなかったとしても、俺だけはそうじゃなかったはずだ。
だって、俺は―――彼は、そのために造られている。
俺は、未来への危惧という名の彼のために。
彼は、科学者の執着という名の俺のために。
だから、俺は知っていた。
彼は、俺の「敵」なのだ。
そのためにこそ、俺は在るのだと。
けれど―――
俺はそれを放棄した。蓋をして、忘れ果てた。知らぬふりをした。
世界よりも、自分を形作る「正義」という至上命令よりも、彼を選んだ。
青きヒーロー。平和の求道者。
生まれる前より与えられた、ROCKMANという絶対の称号。
だから、俺は、そんなものに相応しくない。
すべてを引き換えにしてでも彼を手に入れずにはいられない俺をX(アンノウン)と名付けた故人は、もしかしたら―――分かっていたのかもしれないけれど。
「じゃあ、シグマ。またな(・・・)」
平和? 人類?
本当はそんなもの、どうでも良い。
ただ、俺と世界が危うくなれば、彼は必ず現れる。
俺のために。
「出来るだけ、早く戻ってきてくれよ?」
ほらこの一瞬。ウイルスデータを流出させるには十分だろう。早く、早く。
たぶん俺の次くらいには彼に執着しているこいつが、一番効果的な手段だから。
また、彼は俺の前からいなくなってしまった。けれど絶対に戻ってくる。だって彼は、そのために存在しているのだから。
俺がこの世に在る限り、必ず彼は戻ってくる。けれど、早く会いたいから。いつでもすぐ傍にいてくれなければ、満足できないから。
危機に陥れば現れてくれるのなら、その危機を呼び寄せるだけのこと。
そう考える俺は、きっともう、人に仇なすモノに、成り果てているんだろうけれど。
それでも、俺が望むことはたったひとつだけだ。
ドン、と腹に響く音と共に、もはやガラクタ同様になったシグマの頭部が弾け飛ぶ。
さて、今度はどれくらいで復活してきてくれるのだろう。
待ちきれなくなる前ならそれでいい。でなければ、きっと、自分で……俺こそが、世界を壊したくなってしまうだろうから。
それならそれでもいいのだけれど。彼と共に世界を滅ぼすのでも、世界を守る彼と対立するのでも、彼が自分の傍に、目の前にさえいてくれるのなら、生きていてくれるのなら、どちらでもかまいはしないのだけれど。
どんな形になったって、俺と彼は、この世界の何よりも繋がっているのは確かなんだから。
彼は必ず、俺のもとに戻ってくることになっているのだから。
だから、早く。早く、還ってこいよ、ゼロ。
鬼さんこちら、手の鳴るほうへ。
こちらへおいで、呼んでるほうへ。
どちらがどちら、どちらが鬼か。
作品名:ロックマンシリーズ詰め合わせ 作家名:物体もじ。