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物体もじ。
物体もじ。
novelistID. 17678
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レールの上で、キス。

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 どこでも、どんな状況でも眠れる、というのは、大切な才能だ。特に、自分たちエクソシストのように、旅と戦闘を生業にしているような人種には。



「―――ま、疲れてたんさね。徹夜だったし」



 いろいろと大変だった、クロウリー城での一件から明けて、先行するリナリーやブックマンに追いつくための旅の車上。

 ごとごとと揺れる窓硝子に頭を預けて眠る白髪の少年を眺めて、ラビは緩く笑った。アレン・ウォーカーのちょうど正面に座り、窓枠に頬杖をついた彼には、どこか幼い寝顔が良く見える。


 旅を初めてもう何日にもなるのだし、別に見たことがないというわけではないのだが、どうにもその寝顔が新鮮に見えるのは、たぶん、両目が共に、穏やかに閉ざされているせいだろう。

 出会ってからずっと―――つい昨夜まで、その左目は痛々しく傷つけられたことで閉じられていたから。


 長めの前髪に額の五芒星や頬の傷ごと隠されているが、その目が開いたことは、ラビにとっていくつかの意味で衝撃的だった。


 ひとつには、本当に、潰された目が再生したということ。師であるブックマンの言を疑っていたわけではないのだが、普通なら「ありえない」ことには、やはり驚かされた。

 ふたつには、その目に映るアクマの姿が、ラビにも見えたこと。生まれて初めて見る拘束された魂は、とても酷い姿で、凄惨な戦場を見慣れたラビですら、もう一度見るのは、本音で言えば、勘弁願いたいようなものだった。

  あんなものを常時見て、顔色ひとつ変えるでもないアレンの精神力は、尋常のものではない。感嘆すら覚えてしまう。


 そして、最後には―――ようやく両方揃ったアレンの目に浮かぶ、光の強さ。


 一番初めの印象は、その身に受けた予言の厳しさに似合わぬ、少女めいた儚げな少年。

 目を覚まし、言葉を交わして知ったのは、その中に在る、少年らしい子どもっぽさと、意地。

 直後、背中を合わせたアクマとの戦闘での、鮮やかな変化。今まで見えていたものが見えないという不安な状態で、見る間もなく覚悟を決めてみせた心の勁さは、もう知ったつもりでいたのに。


 右と左、此岸と彼岸の双方を取り戻した白い少年の印象は、それらすべてを覆い尽くして余りあるほど、強烈だった。


 新たなる覚悟で見た世界は、彼にとって、どんなふうだったのだろうか。

 今、目の前で眠っている幼げな姿からは、想像も出来ない。

 ほんの一刻、同じだろう世界を共有したけれど、それだけではとても足りない。

 ラビは、もっとアレンを知りたくて、その為なら、再びあのアクマの魂を目にすることすら、気にならないだろう。


 目が見たい、と強く思う。覗きこんで、すべてを自分の中に取り込んでしまいたい。


 その感情の熱さは、いっそ慕情かと紛うほどで。


 もっと知りたい。

 もっと近くで。

 もっと。



「目、見たいけど、今、目ェ覚まされたら、ちょーっと困るさね……」



 音を立てないよう、そっと立ち上がって、アレンの隣に座り直す。しばらく迷って、どうか起きませんように、と呟きながら、肩と頭を、ゆっくり抱き寄せてみた。

 がたごとと揺れる固い窓硝子よりは、自分の肩の方が枕には良いだろうと、誰にともなく言い訳して、もたれかけさせた白い髪を撫でる。

 目元にかかった髪を払うと、さっきよりずっと近くに見える顔に、少しだけ、我慢ができなくなった。



(起きないで。けど、気がついて)



 薄いまぶたに触れる唇の下で、一瞬だけ、アレンが震えたような気がしたが、顔を離しても、少年が起きる気配はない。


 ほっとしたような残念なような気分で、改めて頭を抱き寄せ、自分も軽くもたれて、目を閉じた。


 ―――その頬の下で、少しずつ、アレンの肌が染まっていくのには、気づかないまま。



04/瞼