永遠に失われしもの 第11章
--さぁ、もうぼっちゃんの
お昼の時間ですね。
そろそろ戻ることにしましょう--
木の枝を一蹴りして、
警察署の屋上に上がるとセバスチャンは、
古い石造りの街の建物の屋上をつたって、
ホテルに向かっていく。
--昔、空腹になると、
貴方は途端に不機嫌になって、
私の見ていない所でつまみ食いをしたり、
スィーツをねだったりしていましたね--
セバスチャンの瞳が紅く燃える。
--
今となっては、我が主が希求するものは、
我が身のみなのだ。
お互いでしか、
その飢えを真に満たすことは叶わぬ。
そしてまた、
真に充足する日は永遠に来ない。
互いに息を重ね、その魂を感じるときに
癒され、また絶望する。
互いに穢し、穢され、運命を呪い合い、
それでもまだ繫がれている --
スィートルームに降り立った、
セバスチャンが目にしたものは、
床に落ちるシエルの
シルクハットだけであった。
--ああ、何ということでしょう。
悪魔になられても、
だれかに連れ去られるとは--
部屋を見渡すと、洋服ダンスに近づく
セバスチャン。
--誰かがここを
お開けになったようですね
この香りは--
作品名:永遠に失われしもの 第11章 作家名:くろ