永遠に失われしもの 第11章
「で、このガキ連れてきたはいいけど
どうするワケ?」
「どうもこうもしません。
セバスチャン・ミカエリスが
飼い主の元にのこのこやって来る
のを待ってればいいのです」
死神派遣協会の派遣課の奥の課長室で、
ウィルとグレルが話している。
白いタイルの床には、シエルが意識無く
転がされていて、
その華奢な手と足に枷が課せられている。
「そんな面倒なことしないでサ~・・
さっさとそのガキやっちゃえば
いいジャナイ」
グレルは紅い髪を櫛でとかしながら、
小さな手鏡ごしにウィルを見ている。
「安全策で行くといったでしょう?
害獣相手にこれ以上
被害を出したくありません。
貴方が一人でセバスチャン・ミカエリス
を狩れるっていうのなら、ご自由に」
「知ってるでしょう?ウィルったら・・・
アタシは私より
強い男にしか惚れないって。
そりゃさぁ・・刺し違えてもって
想いはあるけどサ~・・
もうちょっとだけセバスちゃんの
あの顔を見ていたいっていうか・・
側にいたいっていうか・・
抱かれたいっていうか・・
お嫁にいきたいっていうか・・
あ、でも殺り合いたいっていうか・・
・・・って!ウィル~」
ウィルは全く聞いている気配もなく、
部屋の中を確かめるように、
歩き回っている。
「くだらない事言ってないで、
貴方に頼んだ報告書はできたのですか?」
グレルは鏡と櫛を紅いコートの
ポケットに戻しながら言った。
「ああ、セバスちゃんのおかげで
回収しそこねた魂の報告書ね、
できてるわョ。
あとで机においとくわ。
ところで、
この部屋こんなに殺風景だったっケ?」
「全ての備品を撤去しました」
部屋は窓にカーテン一つ無く、
壁と天井と窓に囲まれた、
ただそれだけの空間だった。
ウィルは眼鏡をくいっと
デスサイズで持ち上げる。
「アレは、周りにあるもの
何でも武器にしますからね」
「イャ-ン、ウィルったらいつの間に
セバスちゃんのことそんなに
研究しちゃって」
「傾向と対策です」
「じゃあさ~・・
アタシにもウィルを落とすための
傾向と対策教えてョ~・・」
グレルは物欲しげな表情をして、
ウィルの顔に自分の顔を近づけた。
「貴方が私より先に管理官クラスになれたら
教えてあげます」
「えええ~~ホンと???」
「まぁ無理でしょうけれどね」
「キャー!!
アタシ・・・頑張っちゃうッ!」
グレルの大きな声のせいか、
軽いうめき声をあげて、
シエルは四肢を動かし、
意識を取り戻す。
作品名:永遠に失われしもの 第11章 作家名:くろ