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ヨギ チハル
ヨギ チハル
novelistID. 26457
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スピアソング

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ルイス・ハレヴィといえば、アロウズ内部でも数少ない女性兵士であり、アヘッド脳量子波対応型【アヘッド・スマルトロン】を扱える唯一のパイロットであった。元来、超人機関出身のソーマ・ピーリスの乗機であったが、彼女亡き後、ルイスに譲渡されたものだ。たかが一介の准尉が専用機など、と顔をしかめるものも多かったが、その機体が脳量子波対応型だったことが分かれば、騒ぐ者は誰もいなかった。

彼女には、何かがある。

若く見目も良く、仮にもアロウズである。馬鹿ではない。すぐに取り巻きができるかと思いきや、正反対であった。それどころか親しくしている兵士もいない様子で、よく休憩室に一人でいる姿が見られた。いくら正規の軍人とはいえ、ルイスはこの艦に、この戦場にあまりにも不釣り合いだった。低い作動音をさせて空気循環器が稼働し、埃一つない床。たとえ硝煙の臭いも、赤い傷口を見ることもない戦場であっても。以前、彼女のことを乙女であると評した男がいたが、それはまったく的を射ていた。

アロウズがここまで大きくなったことも、円滑な軍資金があることも、ハレヴィ財団の功績が大きい。ハレヴィ財団がアロウズに多大な出資を行っていることは、アロウズならずとも周知の事実だった。だがルイス・ハレヴィがその当事者であることはアロウズの中でもごく少数、それこそ将官クラスでなければ知りえないことだった。脳量子波が使えるという分を差し引いても、彼女には過度に特権が与えられすぎている。しかしそれを知ってさえいれば、彼女に専用機が与えられる理由もおのずと分かるものだ。ならば彼女はアロウズ内で幅を利かせている『ライセンサー』なのかといえば、そうではなかった。だが、新たに新型機が彼女専用として与えられることを思えば、いずれライセンサーの一人として迎え入れられるだろうことは予想に難しくなかった。





* * *





「私と准尉に特命が下った。出撃の準備を」

航宙巡洋艦のパイロットルームで異形の面を被った男―ミスター・ブシドーからルイスは辞令を受け取った。ちょうどよかった。スミルノフ少尉が気にかけてくれているのは普段ならばありがたかったが、今の自分には彼の言葉を聞く余裕がない。階級はスミルノフ少尉のほうが上である。「私にかまうな」などと、到底許される発言ではない。言ってしまったあと顔も見られず、気まずい思いをしていたのだが、そこにミスター・ブシドーからの辞令が下った事はルイスにとって幸いであった。

ミスター・ブシドーを先頭に、MS格納庫に向かう廊下を進む。

思ったより小柄だ。

前を行くミスター・ブシドーの背中を見て、ルイスは素直な感想を持った。自分はともかくとして、ジニン大尉やスミルノフ中尉といった面々と比べると、彼は軍人の中でも小柄な部類に入るのではないだろうか。モスグリーンのアロウズ制服の上に金の縁取りのある赤い陣羽織。目と口周りを残し、顔面のほとんどを覆った奇怪な黒い面。そのうえ時代錯誤な言葉づかい。だが彼はたしかに武人であり、その他大勢のアロウズ士官から一目置かれる存在であった。それは彼の奇抜な服装や言動のせいばかりではなく、卓越されたMSセンスのためである。アロウズ内でも数少ない『ライセンサー』であるため、組織の一部でありながら独自行動が許されている。そういった待遇にも文句を言う輩は多いが、ミスター・ブシドーの駆るMSを見れば誰しもが言葉を失うのもまた事実である。モニター越しではあるが、ルイスもミスター・ブシドーのMS戦は何度も見た。他の機体と何が違うのか。もちろん彼専用にカスタマイズされた機体を使っていたが、そのような問題ではなかった。気迫、とでもいうのだろうか。何者をも圧倒させるその圧力。モニター越しに感じた気迫と同じものを、前を行くミスター・ブシドーからルイスは感じていた。

あぁ、だからか。だからこの人は今まで小柄に見えなかったのか。

地上でも同じ戦艦に乗り合わせることは多々あったが、小隊が同じというわけではないので、ほとんど顔を合わせることがなかった。あったとしても休憩室でちらりと後ろ姿を見つける事が出来たぐらいだろう。多大なMS戦での功績、噂、奇抜な振る舞い、それらが合わさってルイスの中でミスター・ブシドーという存在をより大きなものとして感じていたのかもしれない。





* * *





音を立てて加圧扉が開くと、そこはパイロットルームや廊下よりもさらに重力設定の低いMS格納庫である。浮き上がりそうになる身体を抑えつけながら、移動用のグリップを掴んでキャットウォークを進んでいくと、コンテナの中央部に巨大なシルエットが浮かんでいた。

「ガン、ダム…?」

 正面に鎮座する機体を見上げて、ミスター・ブシドーは眉をひそめて呟いた。しかし反響する作業音にかき消され、彼の呟きは誰にも聞かれることはなかった。

 ふわりと陣羽織と制服の裾が翻ると、ミスター・ブシドーはキャットウォークに浮いていた足をつけた。ルイスも彼に倣い立ち止まり、彼と同じ方向に視線を向ける。先ほどまでは黒い影としかわからなかった機体をはっきりと見る。濃紫に赤で縁取られた禍々しいとも思える機体。ともすれば機体の持つ圧力に飲み込まれそうになる。甲虫のような丸みを帯びた機尾にはアロウズのマークがくっきりと刻印されていた。次の作戦でルイスに与えられることになった新たな機体こそ、今目の前にある形式番号GNMA-0001V開発名【レグナント】であった。MSではない、MAである。

レグナント―即ち君臨、統治。

その巨大さ、武装、どれをとっても既存のMSと一線を駕している機体だった。現に二四機のMSを搭載することのできるここ中央部コンテナでさえ、あまりの巨大さにレグナント輸送専用となっている。全長40.2m、全幅70.2m。アロウズの主力兵器であるアヘッドが全長20.6mであることからもその大きさはわかる事だろう。

「いい機体だな」

「そんな。…ミスター、あなたの機体だって」

 名を呼ぼうとした。階級を呼ぼうとした。しかし、ルイスは彼の奇抜な行動は知っていても、そのどちらも知らなかった。ミスター・ブシドーと通り名で呼ぼうともしたが、それを彼がよしとしているのかも知らなかった。そもそも自分のような小娘に渾名で呼ばれたら、いい気はしないだろう。そう思い迷った末、『ミスター』とだけ呼んだ。そのことに気を悪くしなかったのか、彼は何も言わなかった。

「スサノヲ…素晴らしい機体です」

 形式番号GNX-Y901TW開発名【スサノヲ】仰々しい量子制御アンテナが頭部についている、ミスター・ブシドー専用機。アヘッドやGN-Xシリーズと違い、旧ユニオンの主力機であったユニオンフラッグをベースに設計された機体である。彼はライセンサーの特権か、彼専用にカスタマイズされた―彼以外では到底誰も乗りこなせそうにない、無茶な能力値の―MSに乗っていた。スサノヲが今までと唯一違う点は、この機体が主力量産機としての開発が決まったことだろうか。

「君だって、あれを使いこなすのはよほど大変だろう」
作品名:スピアソング 作家名:ヨギ チハル